COLUMN

2019.2.26 DESIGNER

古くて新しいインテリア

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.94

先日、開催しましたアメリカ西海岸レポートには、沢山のお客様においでいただき、アメリカのインテリアシーンへの関心の高さを感じました。今回も、東京、名古屋、大阪と回を重ねるごとに、画像を見ながら私自身が現地で聞いたオーナーの言葉の意味や、空間の意味を感じる事ができ、理解を深める事ができました。10回近く話すのは大変ですが、終わってみるとそういう事だったんだと思う事が多く、念仏ではありませんが、繰り返すことも大切なんだと今回も思いました。

レポートの中で、ロサンゼルスのダウンタウンに昨年完成した独立系ホテル、ホテル フィゲロアを紹介しました。ご案内いただいたオーナーのショーンさんの言葉がとても印象的で、同じダウンタウンにある人気のエースホテルや、ダウンタウンに増えてきた高級ホテルとは、一線を画したコンセプトが、現地にいるときも、画像を見直しても人に優しく快適に思えました。ホテル フィゲロアは、1926年にできた女性用宿泊施設のYWCAだった建物を、1970年代からボヘミアンスタイルの安ホテルに改装して営業していました。最初は古いホテルをリノベーションしただけだと思っていましたが、話を聞き案内されるうちに、新築以上の手間と時間をかけた空間は、流行りのヴィンテージ感を出しただけではなく、人にも地域にも優しい場所としての空間という事が分かってきました。

案内していただいた、ショーンさんは、スタッフだけでなく、お客様やロビーで座っている人にも声をかけ、笑顔で話しているのが、お客様へだけの低姿勢という訳ではなく、人として自然な対応がとても印象的でした。そのショーンさんは日本に10年以上住んだことがあり、言葉使いが私よりずっと丁寧で、今の日本人が忘れているような言葉使いで説明をしてくれます。それが余計に空間を優しく感じさせたのかもしれませんが、、。ホテル フィゲロアは、75億円で購入し、175億円と3年をかけて改装してオープンさせました。ホテルを手がける時に大切にしたのがストーリーです。安全性と創造性、それをお客様、従業員が想像しやすい事、様々な人種や、女性、男性、ゲイの方も大切にした空間が重要で、そして、地域に密着したホテルの公共性を一番大切にしたそうです。

今、多くの高級ホテルは宿泊者のプライバシーや安全を守るために、ロビーには家具を置かかないようになってきました。それに逆行するように、ラウンジチェアやソファが、コーナーコーナーでテイストを変えられ配置されたロビーがありました。宿泊客のプライバシーも守るようにチェックインフロントと公共部のロビーへの導入口を二つに分け、どちらも守られるようにしていました。近隣のビジネスマンがランチやアフターに来やすいレストランが2つ、バーが4つあり、テイストも女性、男性、ゲイの人たちが好みそうな雰囲気です。飲食はもちろん公共性を考えて、トイレの数を以前のホテルから3倍にしたそうです。案内されている途中に、若者が図書館のような本棚の前の椅子で本を読み、近所のお年寄りが、暖炉の前で談笑して、通りかかったショーンさんに話しかけているのを見て、ずいぶん前からここにあったホテルのように感じてしまいました。私の学生の頃、お金が無くても家具の勉強のできるホテルのロビーへ通い、社会人になっても友人やお客様と待ち合わせをする場所だったホテルを思い出してしまいました。それがロスのダウンタウンにあるなんて、少し驚きの空間です。

時代を逆行するようなコンセプトのホテルでしたが、インテリアは建築当初の1926年のスパニッシュコロニアルを守りながら、クラシックから1970年代風の家具まで配置したエクレクティックスタイルの空間は自然で、新しくは感じませんが、古くて新しいインテリアを感じる事ができました。当社が手がける家具も様々な人たちに優しい存在でありたいと思いました。    (クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:ホテル フィゲロアのホテル側のエントランス、中上:案内いただいたオーナーのショーン・ウィリアムさん。日本語が堪能な方でした。右上:ホテルの裏にあるプールとスパニッシュハウスはバーラウンジです。下:246室のホテルではかなり大きなロビです。カウンターチェアは別にしてソファやラウンジチェアだけで11セットで60席ありました。ロビーでは若者が図書館のように使い、暖炉の前では老人が談話していました。
左上:セレブに人気の特別室です。最初に入った時には古いホテルの改装だからか、狭い特別室だなと思いました。中:手前のラウンジチェアの後ろに本棚があります。右上:その本の一冊を押すと電動で戸棚が動きます。右下:20人座れるフォーマルダイニングが現われました。左下:その奥にはプライベートバーがありました。ここまで含めると本当に広い特別室です。