デイヴィッド・ホックニーの「ペアブロッサム・ハイウェイ」
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.183
8月14日、草間彌生さんが亡くなりました。現代アートの巨匠としてもっとも活躍し、作品は高額取引されたアーティストの一人で、海外に行くとその作品の人気に驚きました。草間彌生さんの大きな作品を初めて見たのは20年以上前で、カタログ撮影でロサンゼルスを訪れるようになり、ビバリーヒルズの住宅街の入口にあるビバリーガーデンパークの中に置かれた巨大なアートでした。それまでは存在は知っていましたが、撮影でお世話になったプロデューサーのYASUKOさんが草間さんのアートが大好きで、勧めもありロサンゼルス現代美術館などで見るようになりました。その後、撮影や取材で訪問する住宅では現代アートがインテリアに使われ、家具同様デコレーションの大切な一部になっていることを知りました。さすがに草間さんのアートは見ませんでしたが、村上隆氏や奈良美智氏の作品は見ることが多くありました。
現代アートのもう一人の巨匠、デイヴィッド・ホックニー氏が今年の6月に88歳で亡くなりました。2018年11月にクリスティーズ・ニューヨークで行われたオークションで1972年の作品「芸術家の肖像画―プールと2人の人物」が9031万2500ドル(約144億円)で落札され、まだ破られていない存命時の作家による最高落札価格を記録しています。ホックニー氏は1937年イギリスのブラッドフォードに生まれ、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに学んでいます。その後、1963年にアメリカ合衆国ニューヨークを訪れ、アンディ・ウォーホルと出会い、1964年からカリフォルニア州に滞在し、長期間にわたりロサンゼルスで活動するようになりました。当時まだ比較的新しい画材であったアクリル素材でプールを描いた作品群を多く制作することになりました。その後もロサンゼルスを拠点に制作を続け、ロサンゼルスの風景画は、ホックニーの作品群の中で、もっとも知られている彼のアートイメージになりました。
ホックニー氏の代表作品の一つに「Pearblossom Hwy 11-18th April 1986,#」があります。1988年に制作された作品で、ピカソのキュビズムのアプローチを基にした、フォト・コラージュ作品です。キュビズムは、絵画表現を西洋絵画の一点透視法から解放し複数の時間・動き・視点を一つの画面上に表現することを試みた手法で、複数の視点からものを見ることは、ホックニーの作品の中で、大きなテーマとなっていました。その作品に日本人の女性が関わっていたことは知られていません。その女性とは当社のカタログ撮影でもプロデューサーとして関わっていたYASUKOさんです。YASUKOさんはイギリスで女優をされた後、ロサンゼルスでヨーロッパの有名フォトグラファーと仕事をしていました。その一人の女性フォトグラファーのアニー・リーボヴィッツで、彼女からホックニー氏のアートの題材になる砂漠の場所を相談され、YASUKOさん運転でアニー・リーボヴィッツとホックニーを連れ砂漠のロケハンをしたそうです。
アニー・リーボヴィッツは1973年にローリング・ストーン誌のチーフ・カメラマンとなり、1975年にザ・ローリング・ストーンズのツアー撮影を手がけ、一躍有名になりました。1980年にジョン・レノンと妻オノ・ヨーコの写真を撮影。この数時間後にジョンは暗殺され、写真はローリング・ストーン誌のジョン・レノン追悼号の表紙となりました。YASUKOさんはロンドン在住の女優をする前にジョン・レノンの家でベビーシッターもしていたということで近しい関係にもすぐなれたのではないでしょうか。そのアニーさんからホックニー氏の絵の題材になる砂漠のロケハンを依頼されたそうです。ホックニー氏のロサンゼルスの自宅もウエストハリウッドのYASUKO邸からすぐ近くということもあり、彼とも友人になったそうです。作品の名前にもなったペアブロッサム・ハイウェイはロサンゼルス北部にある実在する道で、砂漠の道路脇にジョシュア・ツリー(観葉植物のユッカの仲間)が生えている荒涼とした風景で、その風景がホックニー氏が一目で気に入り、その場で写真をいろいろな角度で撮り、数百枚の写真を撮影したそうです。
目の前でアート作業が始まり、YASUKOさんは驚いたそうですが、自ら案内した場所が世界的に有名な「ペアブロッサム・ハイウェイ」になったということは、プロデューサーの仕事をしていた中でも誇りに思える仕事だったと話されていました。本当に幅広い交友関係のYASUKOさんは驚きます。YASUKOさんの長い仕事の中で最後に当社のカタログ撮影をお願いできたことは奇跡のようですが、そのYASUKOさんから一番やりがいのある好きな仕事だったと言われたのは私自身も誇りに思います。そのYASUKOさんの友人関係で続けてこられた撮影や取材や建築ツアーは奇跡のようでした。9月2日のセミナーは今までのアーカイブからですが、その中でも最上位に入る住宅ですので、お楽しみください。(クリエイティブディレクター 瀬戸 昇)