COLUMN

2018.6.29 DESIGNER

本当の姿

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.86
サッカーワールドカップで日本が躍進し、冷めかけていたサッカー熱がまた再燃して盛り上がっています。今回も試合会場での日本人サポーターの掃除が話題になり、他の国のサポーターも真似をするようになったと報道されて、誇らしい気持ちにはなりますが、住んでいる横浜にある本牧埠頭近くのトラック通りの道の脇のゴミ捨てなど見ると、すべての日本人が美徳の国民的な報道には疑問が残ります。

相変わらずテレビでは日本人は凄い、日本製品は凄い的な番組が多く、東南アジアをはじめ中国などの公害や建物倒壊の報道もあり、文化や技術でも日本が優れているような事の情報が多く流れています。本当にそうでしょうか?私の子供の頃の新幹線をはじめ電車内の床には弁当箱のゴミが捨てられて、33年前にミラノサローネに行きはじめた頃のヨーロッパでは、日本人の団体旅行が多く、入ったブランド店で勝手に物を触ったり、道で痰を吐く人もいて、同じ日本人として恥ずかしい思いをしました。マナーを守っていると店員さんからは日本人は展示品に勝手に触るし、接客順を待たないので困ると聞いた記憶があります。

最近、中国深圳に行きました。違う業界の会社からデザインの依頼を受け、海外の工場での打合せに何度目かの出張です。10年近く前に上海に行ったきりで、久しぶりの中国に少し驚きました。対日感情が悪くなってからイメージを悪くする報道も多く、自分の中にも悪いイメージが出来上がっていたせいか、今の中国の姿を見て驚きました。深圳は香港空港からフェリーで30分で行ける中国四大都市の一つで、人口1500万人、周辺合わせると4000万人の巨大な都市で、中国のシリコンバレーと言われ、沢山の先端企業の工場が集まっています。工場都市としてイメージし、日本にも飛んでくるPM2.5や排気ガスで曇った大気汚染に覚悟して行きましたが、澄んだ空気の中にある未来都市を見て、自分の知っていた10年前の上海の排気ガスの中の都市とはまったく違うものでした。

深圳へは香港空港直結の高速フェリーで蛇口(シューコウ)港に入国します。久しぶりの中国入管は緊張しましたが、優しげな対応で、驚いたのは、窓口にニコちゃんマークの5段階評価ボタンがあり、利用者が担当官を評価できるシステムがありました。また、ホテルまでのタクシーが電気自動車で、スタイリッシュで高性能なのには驚きました。BYDという深圳のメーカーで65kWhのバッテリーで航続距離400キロで(リーフは40kWh)内装の仕上げは日本製のタクシーとは雲泥の差、欧州車のレベルでインテリアもスタイリッシュです。タクシーの多くが電気自動車で、市内を走るバスもBYD社の電気自動車です。一般車も新しいモデルばかりで、黒い排気ガスを出す車は一台も見ませんでした。また、ほとんどのバイクや自転車が電化されています。高速道路も自動システムが運用されていますが、人のいる料金所もあり、そのゲートに座っている人が綺麗な制服姿で、教育された仕草と笑顔で、最初に通った入国管理と同じで、国を上げてのサービス向上を感じました。

市内を歩いて目につくのがシェア自転車。QRコードにスマートフォンをかざすし鍵を解除して使用できるのですが、驚いたのはタイヤです。自転車で問題になるのがメンテナンスで特にタイヤの空気です。空気無しでも使えるタイヤになっていました。今年の4月に空気不要の自転車用タイヤをブリヂストンが開発し、2019年の実用化を目指すニュースがありましたが、中国ではとっくに実用化して活用されています。海外で発表された物も中国では実用化が早く、本家を追い越し飲み込んでしまうそうです。アメリカのセグウエイも今は中国メーカー傘下になり、空撮ドローンも中国メーカーが世界を席巻しています。飲食の宅配システムも深圳では組織的になっていました。気がつくと世界の企業が中国企業の傘下になっている事も多く、スウェーデンのVOLVOも2011年から中国企業の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)に買収され、今年、メルセデスベンツの筆頭株主も同じ会社になりました。最初、VOLVOはチャイナマネーに飲まれ、消え行くブランドと言われていましたが、品質と安全性を格段に向上させたニューモデルをどんどん投入し、日本でもカーオフザイヤーを受賞しました。

市内に建つ多くの建築は海外有名建築家が手掛け、日本だけでなく、世界でも見る事のできない建物がどんどん出来ています。中国人ブランドの高級ブティックや、古い街並をリノベーションしたアートシーンのOCTや無印が手掛けたMUJI HOTELなど、建築やインテリアでも世界を牽引しつつあります。それを使う人のセンスや感覚が追いついていないようには見えましたが、、。日本にだけいると、自分達の実力が見えなくなってしまいます。都合の良いニュースやネットだけで情報を得て他の国の事をイメージする事は危険です。私自身はできるだけ自分で感じ見た物を理解しなければと思ってきましたが、久しぶりの中国を訪れて、イメージだけ先行させていた事を本当に反省しました。若い人達もどんどん海外に行っていろいろな物を吸収しながら自分たちの実力も再認識すべきだと思います。

当社は国内生産にこだわって物作りを行ってきましたが、良いパーツはカナダ製のガラスなど海外パーツも使用してきました。秋の新作には海外で製作したパーツを使用する予定です。どのような製品になるか、、お楽しみに!
(クリエイティブ・ディレクター/瀬戸 昇)

左:深圳のタクシーBYDe6。BYD(Build Your Dreams)社は深圳郊外に本社を持つ電気自動車などの総合メーカーで、ウォーレン・バフェットも出資をしている。インテリアは流れるようなインパネで、センターの画面には料金以外に運転手の写真と評価の星が並ぶ。右上:深圳の中心街。日曜で車は少ないが驚くくらいの澄んだ空気です。右下:シェア自転車でタイヤをよく見ると孔の空いた空気無しタイヤです。指で押すと空気が入っているような硬さです。
左上:新都心にある深圳市の体育関係の施設は巨大でスケール感に圧倒されました。左下:新都心にはアメリカLAの建築事務所コープ・ヒンメルブラウの現代美術館がオープンしていました。中に入るにはパスポートが必要で写真が取れずに残念です。右:OCT-LOFT 1980年代から空き家になっていた倉庫や寮をリノベーションして工芸デザインセンターが作られ、15万平方メートルの中に多数のショップやギャラリーが並び、中国のアートやデザインの発信基地になっています。