COLUMN

2024.5.30 DESIGNER

適正価格をロサンゼルスで考える

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.156
ミラノから帰った翌週にアメリカ、ロサンゼルスへ行ってきました。敬愛するプロデューサーYASUKOさんの日本帰国が1年伸び夏までになるという事を聞き、最後の建築取材チャンスとして行ってきました。カタログ撮影が始まったのは2008年で、2年に一度の撮影とそのロケハンや毎年開催していた建築ツアーで30回以上ロサンゼルスを訪れていて、住宅では250ヶ所以上を取材してきました。今回は一年ぶりのロスで、いつものようにレンタカーを借りて、住宅だけでなく、話題のホテルや高級スーパーマーケットも見てきました。

今回、アメリカでの物価上昇は驚きました。特に驚いたのは、ウエストハリウッドでのホテル駐車代が昨年の$55から$65になり、TDMという宿泊税はヨーロッパでも徴収されるので納得できますが、市職員を守る税/City Warker Protection$10やアーバンアメニティ料$35などというホテル代に入っているのでは?という料金が別になり毎日徴収、それぞれ課税され、ホテル予約サイトで予約した金額以外が30%以上現地で取られるようになった事です。毎日清掃してくれない部屋のホテル代も上昇し、レンタカー代やガソリン代の上昇も少し驚きます。現地での飲食などの滞在費は昨年も上昇していたので、覚悟はしていましたが、それを上回りました。アメリカでは必須のレンタカーに必要なガソリンのレギュラーがウエストハリウッドでは$6.5でロス市内の多くは$5.5でした。1ガロンは3.78リッターなので、1リッターで1.45ドル(約230円)と日本よりかなり高く、円安でも日本よりかなり高い金額です。

レストランチップはヨーロッパではそんなに気にしなくても良かったのですが、ロスでは驚く上昇して、高くても18%だったのが、今は通常20%で高級店では25%になっていました。もっと驚いたのが、サービスを受けないテイクアウトの店でも支払いの画面にチップが15%、18%、20%と選ぶ所があり何のチップ?と思いましたが、支払う本人を前にしてノーチップのボタンを押すのに躊躇しました。それがレストランでは請求明細の下に18%=$⚪︎、20%=$⚪︎、25%=$⚪︎とそれよりも高く明記してあり、税金と合わせると30%以上プラスされた金額になってしまいます。現地の方に聞くと、レストランチップ%が上がっているけど、持ち帰りの支払いでの画面にチップが表示されるようになり、みんな驚いていていて、笑顔だけもお金取られるようになってしまったと、、。物価が2倍になったが、所得も2倍なので、生活は変わった印象は無いが、所得上昇が低い移民や低所得者は困窮しているとも聞きました。

ロスでは話題になっているセレブ御用達の高級スーパーのErewhon/エレウォンへ行ってきました。ロスといえばオーガニック系スーパーマケットが人気で、一番安いのがプライベートブランドを多く販売しているTrader Joe’s/トレーダー・ジョーズで、エコバッグが人気で日本でも持って歩いている人を見かけます。その上には大店舗展開するWhole Foods/ホールフーズがあります。価格的には物によりますが、同じ石鹸や水ではトレーダー・ジョーズが1とするとホールフーズが2倍、エレウォンは3倍〜5倍という感じの値付けです。日本では同じ品物ではメーカーが決めた希望小売価格が上限で安いスーパーでも半額にはなっていません。海外では値決めは販売店が決めるので、同じ物でも価格もまったく違う事が普通ですが、エレウォンは別格で、そこまでの差は見た事がありません。

エレウォンはロサンゼルスに本社があり、8店舗展開する高級スーパーマーケットで、1966年に日本人の久司道夫とアメリカ人の2人がボストンで設立しました。久司道夫はマクロビオティックの先駆者で発展普及にも努めた方で、ボストンの1店舗だけの店でしたが、2011年にトニー・アントッチが買収して健康食品に特化した店舗をロサンゼルスを中心に展開をしています。フェアファックス、シルバーレイクやカルバー・シティなど若いお金持ちが住む街にあり、店の大きさはトレーダー・ジョーズ位の店ですが、狭い通路に商品がぎっしり整頓されて置かれていました。訪問した店はカルバー・シティのアマゾンスタジオ近くに2022年出店した店です。カルバー・シティはロサンゼルス空港やベニスビーチにも近く、アマゾンやグーグルやアップル社のロス本社があるエリアで、若いIT長者があつまる場所です。

エレウォンはヘイリー・ビーバー(ジャスティン・ビーバーの妻)などとコラボが有名で、ヘイリーレシピのスムージーなど人気です。また、昨年前のロスでのバレンシアガのファッションショーでエレウォンのペーパーバッグやドリンクを持って歩かせるなど、セレブやインフルエンサーなどへのPRも力を入れており、その人たちに憧れる若者に人気になっています。ちょうど昼頃という事もあり、エレウォンが入る建物の周りの外でエレウォンのロゴが入ったドリンクでランチする若者が多くいました。中に入ると、商品が生き生きとして見えます。照明の当て方と彩りが良いのでしょう。野菜売り場で取るのをためらう位きっちり整理と彩を考えた陳列で、エレウォンマークの入ったドリンクやナッツ類など隙間無く置かれています。一番驚いたのは、置かれた商品のマークや名前が前を向いて整理されていて、日本のスーパーでも見ない置き方です。商品の置き方を感心しながら、値札を見ると16オンス/450ccのジュースが11〜15ドル(2,000円〜)450ccの水$2.99(520円)56g入トルティーアチップス$7.99(1,400円)ランチサラダ20ドル(3,500円)12個入りトイレットパーパー$17.99(3,200円)と手が出る物がありません。

エレウォンオリジナルの瓶入りのジュースは上記の金額に瓶代$3(500円)の保証金が必要で返却すると返金されます。なので、ドリンクやナッツ類は購入時に保証金がかかります。(年間$200支払うエレウォン会員になると10%割引になる)最初に書いたヘイリーがコラボ開発したストロベリー・グレイズ・スキン・スムージーは20オンス/562cc$19(3,300円税込)です、、。外で食べている若者のランチは6,000円以上はしているのでしょう。中を見ながら歩いていると、何かお手伝いしましょうか?お困りの事はありませんか?と銀座のデパ地下にも無いようなスマートな接客です。ここまでするからこの値段なのかと少し納得です。でも、コットンのエコバッグが$50(8,700円)で少し良いエコバッグが$135(23,500円)とはエコバッグではないよな、、と思いながらスムージーコーナーを見ると、意識高い系に見える若い人が並んでいました。

金額を見ると買う気にならなかった自分の経済感覚では、エレウォンの良さと売れている理由が見つからなかったので、YASUKOさんの友人でゴールデングローブ賞の審査員をしているYUKIさんにエレウォンの事を聞くと、エレウォンのマークが付いたドリンクを持つ事がカッコ良く思い、自分はこれを買えるだけの収入があるんだとファッション感覚で見せたい人で、$20のドリンクを高いと思わない意識高い系の人が買うんでしょうね。セレブの中にはエレウォンに行った?値段見た?、誰々の親が子供にエレウォンカードをプレゼントしたんだってと、笑い話になる位だからセレブでも経済感覚のある人は行かないし、私は同じ品質の物が1/3以下で買えるトレーダー・ジョーズに行くわ、、と。綺麗な陳列の事を聞くと、たしかに綺麗だわ、でも、あれだけのお金を取るのだから当たり前よね。と手厳しいい答えでした。ディーン&デルーカやスタバが日本に入ってきた時に、バッグやマグカップを持った若者が多かった事を思い出しました。今回、行ったスーパーではトレーダー・ジョーズが高年齢層が多く、ホールフーズでは中年齢層、エレウォンは若年層と来客層が違う事は感じ取れました。適正価格をお客様層によって変えるのがアメリカです。

今回、取材に回った住宅は業者向けのオープンハウスで30億から50億の金額が付いていました。こんな家で生活する人にとってはエレウォンで買うスムージーなど金額は関係ないんだろうなと、思いながら取材を続けました。円安もありますが、ベルエアやビバリーヒルズの邸宅街を車を走らせながら、アメリカの富裕層人口は世界一なんだなと思いました。庶民の私にとっては、In-N-Out Burger /イン・アンド・アウト・バーガーのチーズセットが値上がりして$8.55(1,500円税込)なっていても、この品質でこの金額ならOKだなと勝手に納得、、。でも、日本がんばれ!と心の中では叫んでいました。来週はミラノレポートが開催されますが、8月には今回のロスの取材をお伝えします。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:カルバー・シティのエレウォンの入口。シンプルなロゴがあるだけで、スーパーマーケットらしい商品は置かれません。右上:レジカウンター。スーパーによくある一列ずつのレジでなく、オーク材の腰壁が取り囲みカフェカウンターのように作られています。左下:エレウォンではフードコーナーが充実していて、オーガニックのサラダやスムージーが提供されます。中に働いている人が本当に多い。右下:野菜コーナーもぎっしり整理して置かれ、取るのに躊躇するくらいです。
左上:オーガニック系のジュース類の多くの種類はエレウォンブランドではありませんが、全てのブランドのロゴが同じ方向を向いているのは驚きました。また、すぐに補充されるので、隙間がありません。右上:野菜コーナーはぎっしりですが、棚下の照明の当て方が上手で新鮮に見えます。左下:瓶に入るエレウォンオリジナルの瓶詰めのスープ類。整然と綺麗に並んでいます。右下:オリジナルの瓶に入るジュースとナッツ。ビン類は1個3ドルの保証金が別にかかります。右のハードコアグリーンジュース450ccは$11でそれに瓶デポジット$3と税金がかかり$15,4(2,433円)になります。ナッツは337グラムの中瓶で$14+$3+税=$18.7(2,954円)です。オリジナルだと通常大手メーカーより安くなりますが、逆に倍近くの金額です。