COLUMN

2024.9.30 DESIGNER

街並みの移り変わり

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.160
先日のセミナーで一番の反応があったのは最後の挨拶に発表した12月の本社ショールーム移転の事で、今回の展示品セールのメールニュースでも沢山のお客様からも反響がありました。広尾の地に移転し四半世紀が経とうとしていますが、今回移転を思いたった理由の一つが街の変化です。閑静な一軒家で自然光と静かな佇まいの中で、ゆっくり製品を見ていたく事を目的に広尾の住宅街を選びました。この数年この広尾ではコロナ禍の外出制限で街路樹の管理をあまりしなくなったか、人手不足で庭の草木が伸び放題になっている住宅や共同住宅、賃貸マンションなどが目立つようになりました。

当社が移転した25年前のこの辺りはチェコスロバキア大使館(その頃はまだ別の国になっていませんでした)があり、近隣の通りはエネルギー会社の会長宅や大企業の経営者の大きな邸宅が並んでいて外回りは管理はされ、賃貸マンションも個人オーナーの管理がしっかりして、庭や外部に面した樹木や公共の道路脇の植栽剪定や清掃もしていました。その大邸宅がいつの間にか無くなり切り売りされ賃貸の住宅になったり、オーナーが変わった賃貸マンションが増えてきました。当社では移転時から毎朝、始業時間前に全社員で清掃をする際に外回りの掃除も行ってきました。向こう三軒両隣ではないですが、会社の前だけでなく隣の通りの角まで道路清掃を行ってきました。数年前までは近隣の方と清掃時に顔を合わせる事も多く、感謝の言葉をいただく事もありましたが、その機会もめっきり少なくなってきました。

最近、特に困った事があります。会社近くに小学校があり通学路となっているので、清掃時に子供達が多く通るのですが、通称日赤通りと言われる骨董通りへの抜け道という事もあり車の通行が多く、歩道をスピードを出した電動自転車が走り抜けます。その歩道は住宅やマンションの植栽が伸びて通学路を狭くし、ツツジが植えられている道路の公共植栽も伸びて子供たちが危険な状態になるようになってきました。以前はこんな事は無かったのですが、この数年は建物外の公共の歩道まで手入れする家も無く、当社社員で通学路の草刈りをする状態になっています。町内会がしっかりした地域なら通学路の整備や自宅前の雪が降った朝の雪かきなど見られると思いますが、賃貸住宅や新しい住人の自宅など家の外の事などまったく関心が無いようです。不思議な事に道路の雑草が増えるとタバコや飲み物や食べ物ゴミの投棄も増えてきました。

以前のコラムでも書きましたが、世界中どこへ行っても道路を見るとその地域の治安や文化度を感じる事ができます。ロサンゼルスへ通うようになり、より危険なエリアはすぐに分かるようになりました。若い頃から映画が好きでスピルバーグ監督のETに出てきたアメリカの中流住宅地で、塀の無い住宅街を主人公が走り回るシーンが印象的で、特に道路と歩道を隔てる芝生と車庫の脇にある芝生には憧れを感じました。ロサンゼルス郊外のパサディナで撮影されましたが、今でもその雰囲気を残す住宅街が見られます。道路にゴミが無く、道路の公共の植栽や芝生が綺麗に手入れされている街はお金持ちのエリアだけでなく、安全なエリアでもあります。車で走っているとゴミが見え雑草が生えた場所が目につくようになると車を停めずに走り抜けます。

アメリカの街は町によって法律は違いますが、多くは道路側の緑地や建物前の植栽、庭木まで建物の持ち主に管理する義務があり、道路と歩道の間の芝生の管理や自分の宅地であっても、手入れされていない状態だと街から是正命令があり、罰金刑が言い渡されます。放置されている事が続けば役所手配で剪定や清掃がされ、罰金と合わせ料金が請求されます。それ以外に、自分の庭であっても木を勝手に伐採すると通報され罰金刑が来るそうで、日本から移住してそれを知らずに庭木を切って通報された事を聞いた事があります。ホームセンターに行くと芝刈り機のカートが普通に売られていて休みの日にそれに乗って芝刈りをする事が普通で、広い庭ではロボット掃除機のような自動芝刈り機を使っています。取材に回るビバリーヒルズやベルエアあたりでは通いの庭師が清掃を行っています。家を維持するには家だけでなく、所有地内の庭だけでなく、道も清掃する義務も負う為に手間もお金もかかるので、お金持ちのエリアは町も綺麗なんです。

ビバリーヒルズにはアメリカ西海岸らしい道路に面した芝生があり、それに続く前庭も手入れされています。中のインテリアも素晴らしい住宅ですが、道路から住人の経費で環境作りをしている事で、あの街並みが作られている事を認識する必要があります。日本も街の景観を作る一員だという事を、住人だけでなく管理する会社も認識して欲しいと思います。田舎道を走っている時に素敵だと思える街の植栽や道路の草花は住人の手で維持されている事を認識しないといけません。現在の広尾ショールームは自然光の入る気持ちの良い建物です。この地で最後のセールを行いますので、ぜひおいで下さい。移転する場所は一棟建ではありませんが、当社で手入れする中庭のあるショールームの予定です。場所など詳細は、近く正式にお知らせしますので、お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:当社の朝の風景で会社の前の通りを角まで清掃して道路脇の植栽も手入れしています。夏の清掃は汗だくになりますが毎日かかさず社員当番で行っています。左下:右側の賃貸マンションの庭の草木から落ちた種の雑草や草が道路脇の植栽に生えて通行の邪魔になっています。右側:賃貸マンションだった所を企業が買取りスタジオにしていますが、植栽はまったく手入れしていないので、雑草が伸び放題で通行の妨げになっています。空き家ではありません。
左:ビバリーヒルズの住宅地の昼間に駐車している車はガーデナー(庭師)の車がほとんどで、ピックアップトラックが多い。道路と歩道の間にある芝生も手入れされています。右:ブレントウッドの住宅街で、道路と歩道の間が大きく取られて広い芝生です。家の前庭はナチュラルなバラの咲く庭ですが、歩道から道路側の芝生も綺麗に手入れされています。建物の管理は家の中だけでなく、街の景観も守るとゆうことなんでしょうね。