COLUMN

2025.4.30 DESIGNER

ミラノサローネとデザインイベントを憂う

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.167
今年もミラノへ行ってきました。ロー・フィエラで行われる家具見本市のミラノサローネと隔年開催の照明展ユーロルーチェ、ミラノ市内で行われるデザインイベントを回ってきました。ネットで発信されるニュースや画像も多く、今年も沢山の所でトレンドセミナーとして開催される予定です。今回のコラムでは40年近くミラノへ行きながら正直な気持ちをお伝えしたいと思います。今年のミラノで行われたイベントはコロナ禍以降に広がった、入場制限と顧客のみを入場させる振り分けをする上位ブランドと、顧客データ収集のための事前入場登録させるブランドや展示会、大行列を産むだけのファッションブランドのイベントなど、徒労に思う展示も多く本来のワクワクするようなデザインイベントとは違ってきていました。今年のミラノサローネ来場者は302,548人(2024年370,824人、2019年386,236人)と昨年の87%となりました。それ以上にミラノ全体の人出も減っていると思うのはミラノホテルの最沸騰や渡航コストなどが、費やす時間に合わないと思う人が多くなってきたからではないでしょうか。そろそろミラノで開催されるというだけで行く時代は終わりにしないと、と感じたミラノでした。

その理由を少し話したいと思います。25年以上前のミラノイベントはフィエラ会場が市内中心地に近くその会場がメインで、世界中から集まるバイヤーと年間成約する売上のための展示会でした。当社でもミラノサローネへ出展したのは1989年で今から36年前でした。その頃は世界から主要ブランドが出展しており、見本市で新しいデザインを発表していました。そのミラノサローネを訪れると一同に集まったブランドと新作が見られる貴重な場所と時間でした。その時代はインターネットが無く渡航して視察するしかなく自分の目で見るかありませんでした。各ブースでは情報として紙のカタログを受付で申請してもらいます。その紙媒体は重く一日回っているとキャリーバックを持参しないと、とても持てませんでした。写真に関してもも気軽に撮れるデジカメやスマホなど無く、また各ブランド共、撮影に対して規制が厳しくプレスパスを持っていても入場で許可を取らないといけなく、情報自体が価値のある物でした。その時代から毎年訪問し、情報を社内共有していたので、自社の情報だけにするのはもったいないとお客様へのミラノレポートとしてセミナーを始めました。

ミラノサローネ時期に家具の展示会だけだったイベントが大きくなり、世界中から見学者が増えてくると、その期間にデザイナー個人の作品発表や企業PRのインスタレーションなどデザイン祭りのイベントが中心となってきました。今ではミラノ市内で行われるデザインイベントがメインとなってきました。そのイベントの規模や質もミラノに行かなければ見られない事で、世界中からの来場者が増え、そのためミラノ市内ホテルの宿泊費も高騰しはじめ、20年前までは2倍程度だったのが、3倍~5倍になり、昨年宿泊した中心から少し離れた場所にあるホテルは昨年一泊6万円だったのが、今年は9.5万円と、通常一泊1.5万円程度の部屋が6倍以上の金額になりました。ミラノ中心に近いエリアのホテルは期間中、一泊平均12.5万円以上で、ホテルの高騰ぶりは狂乱状態です。それをスタッフ同行で3部屋5泊以上はとても宿泊する事はできず、4泊に減らさざるえませんでした。円安もあり航空券と滞在費を入れると平常時期の4倍の予算がかかるようになりました。また、フィエラのサローネ、国際家具見本市の€56(9,000円以上)する入場料も展示会としては高価なチケットになります。

高騰した滞在費に見合う内容なら我慢できますが、国際家具見本市の出展を取りやめた会社が多くなり市内イベントの質も落ちてきました。国際家具見本市では、数年前からPoltrona FlouやCassina、B&B、Zanotta、Morosoなど有名ブランドは出展せずに市内ショールームだけになり、今年はMorteni&CやFrexformも市内ショールームだけになりました。Morteni&Cで話を聞くと、高騰する会場の出展費とブース工事費用を考えると市内にショールームを設ける事ができる。今後も多くのブランドが出展を取りやめるだろうとの事でした。出展者が減少した国際家具見本市会場ではMinottiやFlouの顧客のみの入場制限が、PoliformやLEMA(2/3のエリア制限)でも顧客のみの入場になり、まったく中にも入れず見る事もできないブースが増え、高い入場料を払って展示も見られない、入場しても触れない座れないでは家具の展示会として、いかがなものかと思います。増えすぎた市内イベントでは見るイベントを決めて歩かなければ回りきれず、人気ファッションブランドでは長蛇の列で、やっと入場しても時間に見合わない内容が多く、画像拡散を狙ったSNS映えばかりを意識した展示が多く、がっかりする事が多くなってきました。また、やっと入った中でもスマホ撮影を待つ人でよけいに時間がかかっています。スペインの某ブランドは原宿で開催していたイベントの方が百倍良かったと思いました。

ミラノサローネの国際家具見本市も会場での入場拒否への規制や、市内参加イベントでは展示の質を審査する事も主催者側が考えるべきで、ホテル宿泊料金の上限規制をミラノ市も考えないと、今年から始まった来場者の減少がより進むのではないでしょうか。展示会として本来の姿とイベントの質向上をさせて、インテリアを仕事とするプロユーザー寄りに考えたイベントになるように考える時期にきているのではないでしょうか。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

ロー・フィエラで行われる家具見本市ミラノサローネ。今年のミラノサローネ来場者は302,548人(2024年370,824人、2019年386,236人)と昨年の87%となりました。左上:Minotti 今年は展示ブースがブラウンの木目になりました。中の通路に入っても展示内には入れません。いつもは多少は中が見えましたが、観葉植物が窓の前に置かれほとんど見えなくなりました。写真を撮ろうとした人には中からダメと言われます。そんなに見せたくなければ展示会に出展しなければいいのにと思います。左下:Poliformも予約できずに顧客のみの入場で、入れない人はエントランス脇のガラス越しでしか見えません。右上:LEMA。いつもは中に入れましたが、今年は入場登録して入れても1/3位の展示のみの入場で、広い顧客エリアに入れません。右下:edra。3年前からこのスタイルのブースですが、登録して入場しても中の通路のみで、その通路にもガラス収納が置かれよく見えなくなっていました。ここも座る事もできませんでした。高い入場料を払って見る事もできないのは詐欺に近いように思います。
ミラノ市の中心街で行われるデザインイベントにはファッションのスーパーブランドの展示もあり多くの行列を作っています。左上:ペロタ球技場でいつも展示イベントを行うHERMES。今年は白い箱を展示から吊るし一部のみ開けてガラス器の展示をしていました。展示開口が狭く1〜2人が写メを撮ると動かなくなります。並んでまで見る価値があるか、、。左下:SAINT LAURENTの展示でシャルトット・ペリアンとのコラボ展示。トルトナエリアで少し離れた展示でしたが、サンローランの展示がどのようなものかと見に行きました。大きなブースの中に木仕切りを吊るしての展示で、中に3点を展示しただけでした、、せっかくここまで来たのにと思うような完成度でした、、。右上:Gucci | Bamboo Encounters。グッチを象徴する素材 バンブーの不朽のレガシーをたたえるエキシビションを開催と聞いて並びましたが、完成度の低い展示でかなりがっかりしました。右下:LOEWE TEAPOTS。ミラノサローネのために作られた新作のティーポット。25人のアーティスト、デザイナー、建築家が、「お茶を淹れること」の豊かな伝統を再想像したそうです。行列の中は大きなテーブルがありその上に置かれているだけで、みなさん写真を一枚ずつ撮るので回りには入れません。3日目には全品販売終了して係の方もいなくなっていました。原宿の展示が100倍良かったかも、、。