COLUMN

2018.8.31 DESIGNER

アメリカの不動産価値

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.88
8月にアメリカ西海岸建築セミナーで巨匠の建築特集を開催しました。ほとんどの建物が1920年代から60年代にかけて設計された建物ですが、住宅として使われています。セミナーをするにあたり、以前取材した写真の整理ともに現在の状態も調べましたが、住宅のオーナーが変わっていました。アメリカ人は一生でかなりの回数の住まいを変えるとは聞いていましたが本当です。

2005年に取材した1923年に建てられたフランク・ロイド・ライトのエニスハウスは、ブラウン氏が所有していましたがロサンゼルス大地震の時に大きな被害を受け、修復はされてもまだ痛んだ状態でした。ブラウン氏が亡くなってからロサンゼルス市に寄付されましたが、補修費用が膨大にかかるため、市では所有しきれずに1500万ドルで売り出されました。しかし、1000万ドルかかるという修復費用のために結局売れずに、三分の一以下の450万ドル(5億円)で2011年に投資家のロン・バークル氏に売られました。その時の契約書には建物の完全な修復を行い、年間12日一般の方に公開する事が条件として入れられました。それが、今年6月にはの購入金額の5倍の2300万ドル(25億円)という高額な金額で売りに出されました。家の修復にいくらお金がかかったかは分かりませんが、3倍以上で転売されるとはさすが投資家です。

その近くにはフランク・ロイド・ライト息子のロイド・ライト・Jrが1926年に設計した、ソーデン・ハウスがあり、2006年撮影に使用しました。その時はデコレーターのゾーランさんが所有していましたが、2001年に廃墟の状態になっていた建物を120万ドルで購入し、リノベーションして元の美しい住宅になり、2004年にはディカプリオ主演の映画アビエイターで使われました。そのソーデン・ハウスも2016年に4倍の475万ドルで売られていました。2008年のリーマンショックで不動産の価格が暴落し、セレブの住むウエストハリウッドの住宅街にもセールの看板がしばらくありましたが、今ではリーマンショック以前以上の好景気で、工事中や改装中の住宅が目立ちます。有名建築家の設計した住宅だけでなく、ミッドセンチュリー建築は元の形に近いレストレーションを行えば価値ある物として取引され、購入した時より高額な金額で取引がされていています。それが有名建築家の設計であれば、美術的な価値を持って取引がされます。住まいを投資として住み替えながらステップアップし、リタイヤの時に小さな住宅にして余生を過ごす方も多いと聞きます。

サンフランシスコのIT企業やシアトルのアマゾン社によって市内の住宅価格やアパートの賃料が数倍になり、一般人が住めなくなったとTVニュースで見ましたが、ロサンゼルズもサンタモニカを中心にアップルやグーグル社などIT企業のオフィスが出来てシリコンビーチと言われるようになり、近隣の家賃は2倍以上になり普通の人はなかなか住めなくなってきたそうです。ロサンゼルス市内では高級ホテルのオープンラッシュで話題のホテルも数多く、中でもピエール・イヴ・ ロションが手がけたウォルドルフ・アストリア・ホテルが話題になりました。また、レストランチェーンの「NOBU」の松久信幸氏がマリブに18部屋のNobu Ryokan Malibuを作り、和のインテリアを取り入れた空間も話題になっています。その他も多くのホテルがオープンしましたが、ダウンタウンに数年前にできたエースホテルのようなチープなインテリアのホテルではなく、西海岸らしいナチュラルでも高級感のあるインテリア空間が目立ちます。これはお金を持つ若者達が多くなり、好みも変わってきた事からではないでしょうか。

今年も12月にアメリカ西海岸を訪れる建築ツアーを企画しています。今回は住宅だけでなく、話題のホテルも訪問したいと思っています。昨年からかなりのスピードで様々な変化を見せるLAのインテリアが、どの方向を向いているか見る事を、今から楽しみにしています。その前に秋の新作発表会へ向けて、新作の試作も進行中です。今までとは全く違う方向性の家具かもしれません。お楽しみに!     (クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:エニスハウスはフランク・ロイド・ライト設計で1923年に建てられました。930平方メートルで3LDK。巨大な面積で部屋数が極端に少ないのは住むには効率が悪い。右:ソーデン・ハウスは1926年にロイド・ライト・Jr設計で建てられました。520平方メートル、7LDKで中庭にプールがあります。この規模で475万ドルはエニスハウスと比べると適正かなとも思います。どちらも同時期に建てられたテキスタイルコンクリートブロックを使用し、マヤをデザインモチーフにした建物です。
左:ウォルドルフ・アストリア・ホテルはヒルトングループの最上級ホテルでしたが、2014年に中国企業に買収されました。インテリアデザインのピエール・イヴ・ ロションはフランス人インテリアデザイナーで、日本では資生堂が手がけるフレンチレストランのロオジエのデザインも手がけました。右:レストランチェーンの「NOBU」の松久信幸氏がマリブに作ったNobu Ryokan Malibu。チーク材をふんだんに使用した和の空間はStudio PCH, Montalba Architects and TAL Studioが手がけました。

2018.7.30 DESIGNER

データの断捨離

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.87
夏の西海岸セミナーが始まります。今回で16回目になる西海岸セミナーですが、一昨年、初めてアーカイブの中からテーマを決めて再編集をしたセミナーを開催しました。テーマはヴィンテージ建築特集で、以前のセミナーでは自分自身も気がつかなかった事が多く、眠っている画像を見返すことで違った視線で見ることで新たな話をすることができました。今回は2回目になるアーカイブの中からのセミナーで、巨匠、有名建築家の作品を集めた建築セミナーです。

2005年からアメリカ西海岸でカタログ撮影を行っていますが、その頃のデジタルカメラの性能と画像処理ソフトのフォトショップの機能は今と比べるとかなり劣っています。昔のセミナー画像を見ると画質のひどい写真ばかりだったので、今回のセミナースライドに流用するのを諦めました。そこで元写真のデータを見直して使える写真が無いか、保存用のハードディスクから探した元写真を画像処理をするとかなり良くなる事が分かりました。そこで、十数年前のデータを探し出すことにしたのですが、一苦労です。今ではフォルダ名を種別に分け、検索できるようにしていますが、その頃は二度と使わないだろうと、適当なフォルダ名をつけて保存していたせいもあり、なかなか見つかりません。

やっと、探し出した数百枚の元データをリマスターをすると、見えなかった所や色が分かるようになった写真が沢山ありました。10年以上前に撮った沢山の画像を再編集するのは大変ですが、記憶を元に色補正していくと、その時に気がつかなかった事や、素材や色まで見えてきました。今ではカメラの性能が上がり広角レンズの歪みが少なくなりましたが、昔の写真は画面の左右がかなり湾曲しています。それも今ではデジタルで補正できます。またカリフォルニアの強い太陽のせいで室内の陰影が強く暗い場所でも、シャドウ部だけを明るくする事で全体的に見えるようになりました。

今のiPhoneでも、写真補正機能を使えば逆光を補正するシャドウだけを明るく出来るのですが、パソコンソフトのフォトショップはさらに進化していて、ゴミや人やコンセントなども簡単に消せるようになりました。今回、使用する写真を千枚近く編集し直しましたが、真っ黒で使えなかった写真や歪んだ写真も、その機能によって壁や床の素材など、建物の詳細がより鮮明に見えるようになりました。昔の写真の元データを残していて本当に良かったと思います。写真などのJPEGデータはパソコンが新しくなっても開く事が出来るので、リマスターすると良くなります。パソコンデータは不要な物を捨てていかないと、データが溜まる一方で大変な事になりますが、ハードディスクに残して置けば、また使えるものもあります。

世の中断捨離ブームで要らない物を捨てて整理する人が増えていますが、昔のものを大切に残しておけば使える事もあります。物については長く使えるデザインや素材を選んでおけば、ずっと使えたり、また使うことができる日もあります。そのためには何が大切なものかを吟味する必要がありますが、、。今回のセミナーの住宅は古いものでは100年近く使われて、途中何度も廃虚になりかけた建物がたくさんあります。しかし、今ではリノベーションされて新たな価値を与えられています。時代を超えて愛される為のヒントがここにあるように思いました。

私達の家具も永く愛されて、時代が流れても復活出来るデザインをしなければいけません。秋の新作発表会に向けて開発を進めています。セミナー画像を処理しながら、今回の新作は長く愛される製品になっているか、なるような物作りはできているか、再度見直しをしなければ、、。今回の新作は今まで使った事のない素材を使用します。お楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:フランクロイド・ロイド・ライトjr設計の1926年建築のSowden House。上は2006年に撮影した元データで壁の素材や室内が暗く見えません。リマスター画像は壁側の植物や室内まで見えるようになりました。右:リチャード・ノイトラ設計の1956年建築のTroxell House。キッチンの写真ですが、パースがついていてインテリアの壁や天井が暗く素材感がわかりません。リマスター画像はパースが綺麗になり天井の素材も見えるようになりました。

2018.6.29 DESIGNER

本当の姿

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.86
サッカーワールドカップで日本が躍進し、冷めかけていたサッカー熱がまた再燃して盛り上がっています。今回も試合会場での日本人サポーターの掃除が話題になり、他の国のサポーターも真似をするようになったと報道されて、誇らしい気持ちにはなりますが、住んでいる横浜にある本牧埠頭近くのトラック通りの道の脇のゴミ捨てなど見ると、すべての日本人が美徳の国民的な報道には疑問が残ります。

相変わらずテレビでは日本人は凄い、日本製品は凄い的な番組が多く、東南アジアをはじめ中国などの公害や建物倒壊の報道もあり、文化や技術でも日本が優れているような事の情報が多く流れています。本当にそうでしょうか?私の子供の頃の新幹線をはじめ電車内の床には弁当箱のゴミが捨てられて、33年前にミラノサローネに行きはじめた頃のヨーロッパでは、日本人の団体旅行が多く、入ったブランド店で勝手に物を触ったり、道で痰を吐く人もいて、同じ日本人として恥ずかしい思いをしました。マナーを守っていると店員さんからは日本人は展示品に勝手に触るし、接客順を待たないので困ると聞いた記憶があります。

最近、中国深圳に行きました。違う業界の会社からデザインの依頼を受け、海外の工場での打合せに何度目かの出張です。10年近く前に上海に行ったきりで、久しぶりの中国に少し驚きました。対日感情が悪くなってからイメージを悪くする報道も多く、自分の中にも悪いイメージが出来上がっていたせいか、今の中国の姿を見て驚きました。深圳は香港空港からフェリーで30分で行ける中国四大都市の一つで、人口1500万人、周辺合わせると4000万人の巨大な都市で、中国のシリコンバレーと言われ、沢山の先端企業の工場が集まっています。工場都市としてイメージし、日本にも飛んでくるPM2.5や排気ガスで曇った大気汚染に覚悟して行きましたが、澄んだ空気の中にある未来都市を見て、自分の知っていた10年前の上海の排気ガスの中の都市とはまったく違うものでした。

深圳へは香港空港直結の高速フェリーで蛇口(シューコウ)港に入国します。久しぶりの中国入管は緊張しましたが、優しげな対応で、驚いたのは、窓口にニコちゃんマークの5段階評価ボタンがあり、利用者が担当官を評価できるシステムがありました。また、ホテルまでのタクシーが電気自動車で、スタイリッシュで高性能なのには驚きました。BYDという深圳のメーカーで65kWhのバッテリーで航続距離400キロで(リーフは40kWh)内装の仕上げは日本製のタクシーとは雲泥の差、欧州車のレベルでインテリアもスタイリッシュです。タクシーの多くが電気自動車で、市内を走るバスもBYD社の電気自動車です。一般車も新しいモデルばかりで、黒い排気ガスを出す車は一台も見ませんでした。また、ほとんどのバイクや自転車が電化されています。高速道路も自動システムが運用されていますが、人のいる料金所もあり、そのゲートに座っている人が綺麗な制服姿で、教育された仕草と笑顔で、最初に通った入国管理と同じで、国を上げてのサービス向上を感じました。

市内を歩いて目につくのがシェア自転車。QRコードにスマートフォンをかざすし鍵を解除して使用できるのですが、驚いたのはタイヤです。自転車で問題になるのがメンテナンスで特にタイヤの空気です。空気無しでも使えるタイヤになっていました。今年の4月に空気不要の自転車用タイヤをブリヂストンが開発し、2019年の実用化を目指すニュースがありましたが、中国ではとっくに実用化して活用されています。海外で発表された物も中国では実用化が早く、本家を追い越し飲み込んでしまうそうです。アメリカのセグウエイも今は中国メーカー傘下になり、空撮ドローンも中国メーカーが世界を席巻しています。飲食の宅配システムも深圳では組織的になっていました。気がつくと世界の企業が中国企業の傘下になっている事も多く、スウェーデンのVOLVOも2011年から中国企業の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)に買収され、今年、メルセデスベンツの筆頭株主も同じ会社になりました。最初、VOLVOはチャイナマネーに飲まれ、消え行くブランドと言われていましたが、品質と安全性を格段に向上させたニューモデルをどんどん投入し、日本でもカーオフザイヤーを受賞しました。

市内に建つ多くの建築は海外有名建築家が手掛け、日本だけでなく、世界でも見る事のできない建物がどんどん出来ています。中国人ブランドの高級ブティックや、古い街並をリノベーションしたアートシーンのOCTや無印が手掛けたMUJI HOTELなど、建築やインテリアでも世界を牽引しつつあります。それを使う人のセンスや感覚が追いついていないようには見えましたが、、。日本にだけいると、自分達の実力が見えなくなってしまいます。都合の良いニュースやネットだけで情報を得て他の国の事をイメージする事は危険です。私自身はできるだけ自分で感じ見た物を理解しなければと思ってきましたが、久しぶりの中国を訪れて、イメージだけ先行させていた事を本当に反省しました。若い人達もどんどん海外に行っていろいろな物を吸収しながら自分たちの実力も再認識すべきだと思います。

当社は国内生産にこだわって物作りを行ってきましたが、良いパーツはカナダ製のガラスなど海外パーツも使用してきました。秋の新作には海外で製作したパーツを使用する予定です。どのような製品になるか、、お楽しみに!
(クリエイティブ・ディレクター/瀬戸 昇)

左:深圳のタクシーBYDe6。BYD(Build Your Dreams)社は深圳郊外に本社を持つ電気自動車などの総合メーカーで、ウォーレン・バフェットも出資をしている。インテリアは流れるようなインパネで、センターの画面には料金以外に運転手の写真と評価の星が並ぶ。右上:深圳の中心街。日曜で車は少ないが驚くくらいの澄んだ空気です。右下:シェア自転車でタイヤをよく見ると孔の空いた空気無しタイヤです。指で押すと空気が入っているような硬さです。
左上:新都心にある深圳市の体育関係の施設は巨大でスケール感に圧倒されました。左下:新都心にはアメリカLAの建築事務所コープ・ヒンメルブラウの現代美術館がオープンしていました。中に入るにはパスポートが必要で写真が取れずに残念です。右:OCT-LOFT 1980年代から空き家になっていた倉庫や寮をリノベーションして工芸デザインセンターが作られ、15万平方メートルの中に多数のショップやギャラリーが並び、中国のアートやデザインの発信基地になっています。

2018.5.30 DESIGNER

椅子とテーブルの差尺について

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.85
先日、家具と人間工学について話をする機会がありました。椅子やテーブルは、人間工学的に考えられて設計されます。その基になるのが、人間のいろいろな部位を測定した人体寸法です。私が初めて人間工学を知った高校生の頃には千葉大学の小原二郎先生が測定したデータで家具を製作しましたが、今では国立研究開発法人産業技術総合研究所が217カ所の人体部位寸法を測定しており、日本鉄道車輛工業会の電車のシート規格や、自動車のシート、眼鏡や帽子などファッション関係など、様々な分野で活用されています。

椅子については使用される人体部位は、下肢高(かしだか)椅子の高さや、座位臀・膝窩距離(ざいでん・しつかきょり)座面の奥行き、座高(ざこう)が関係します。テーブル高さについては、この座高に基づいて椅子との差尺寸法が計算されて算出されています。この椅子とテーブルの差尺が合っていないと、使い心地だけでなく、姿勢が悪くなり、肩こりや頭痛など健康被害を引き起こす事があり、とても重要な高さです。しかし、ネットで差尺を検索すると多くのサイト(ほとんどのサイト)で間違った情報が書かれています。差尺とは座の高さとテーブルの差や、椅子のSH(シートハイ)とテーブル高さの差と書かれています。家具メーカーのサイトだけでなく、権威ありそうなインテリアや建築関係のサイトでも同じような書かれ方をしていています。この間違いはインテリアのプロの中でも間違った認識をしている事が多く、カタログに明記されている椅子のSHに差尺を足した物がテーブルの高さと認識されています。

差尺の正式な算出方法は座高÷3-10ミリで、身長が170センチの方で座高が900ミリ÷3-10ミリ=290ミリが差尺となります。そして、その290ミリを座の高さにプラスするのですが、410ミリの座の高さに290ミリを足して700の高さになります。しかし、この座の高さの基準が問題なんです。一般的に販売されている椅子はSH400から輸入品のSH470くらいまでかなり高さに幅があり、同じメーカーでもデザインによってかなり高さの表記が違います。当社の椅子もSH410~SH450と40ミリも違います。それに合わせるテーブルの高さが40ミリ違うかといえば、そうではありません。座の高さの基準になるのが、座位基準点になります。これは座骨結節部(骨盤の下に突き出た部位)で人が座る時に身体を支える場所になり、この座位基準点の高さに差尺を足してテーブルの高さが決まるのです。

当社では椅子のSH表記の高さが違っても同じ座位基準点になるように設計されています。SH410と低いものはクッションが薄く、座の素材が合板タイプで、SH450と高いものは下地にバネを使用し、柔らかなウレタン素材のクッションを置いて仕上げています。そのために、カタログ表記上の座の高さが違っても、座位基準点は同じです。同じメーカーではSHが違っても同じ高さにお尻の座骨が止まるように設計されている事が多いと思いますので、SH表記寸法でなく、座基準がどの辺りになるかを理解して、差尺を足してテーブルの高さを決めるようにしましょう。家具は使われる方の身長によって各部の寸法が決まってきますが、既成製品では平均身長から割り出された寸法になります。日本だと男女の平均身長165~170センチで算出されたサイズになりますが、人間は合わせる許容能力がありますので、ミリ単位で気にする必要はあまりありません。

当社の家具は人間工学に基づいて設計していますので、デザインは違っても、どの椅子に座っても大体同じ座位基準点になり、同じ掛け心地になるようになっています。テーブルの高さはH700~720の高さに合うような基準点ですので、当社以外で購入される場合は、その範囲でお選びいただければ間違いありません。また、大きなお客様用に座の高さを高くしたり、低いお客様用に脚をカットなど特注対応もしていますので、お気軽にお問い合せ下さい。
(クリエイティブ・ディレクター/瀬戸 昇)

左:座が合板でクッション性の無いアルコはSH420ミリですが、座位基準点は410ミリです。右:座下にバネ下地が入っており、75ミリのクッションを入れているNC-007MはSH450ミリですが、こちらも座位基準点は410ミリです。
左:人体部位寸法から出した差尺表と計算式です。右:差尺の基準になる座位基準点は座骨の先端の座骨結節部です。ここが座って落ち着く辺りが座位基準点で日本人の平均身長では高さ410ミリ辺りになります。椅子のカタログ表記のSHとは違います。

2018.4.27 DESIGNER

秘境のカフェ

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.84
先日、沖縄で最後のアメリカ西海岸レポートを終了しました。沖縄代理店のモジュールさんでのセミナーも15年続けていて、毎年楽しみにされているお客様も多くいらっしゃいます。沖縄は赤瓦の塀に囲まれた住宅のイメージですが、沖縄の住宅は94%が鉄筋コンクリートで建てられていています。戦後の木材不足や台風の事など様々な要因はありますが、コンクリートで出来た住宅の多さに驚きます。そういった事もあるのか、沖縄でのアメリカ西海岸レポートの感心の高さで沢山のお客様に来ていただきます。

那覇市にあるモジュールさんはインテリアショップには珍しく文具と家具を取り扱っています。オーナーご夫妻のセンス良く、私自身も沖縄で文具を購入する事が定番となっています。モジュールさんのお客様はモダン住宅の建築設計をされている方が多く、その中でも宜野湾市にある設計事務所のAtelier TAKE5さんは、スタイリッシュな建築を手掛けています。北部のやんばる国立公園内にあるBOOK CAFE OKINAWA RAILもその一つで、那覇市から車で2時間かかる秘境にあり、当社の家具を使いいただいています。今回、どういう場所なのか知りたくて向かいました。

カーナビに住所を入力しようとするのですが案内が出ません、。途中からグーグルマップを頼りにしたのですが、電波が途中から入らず、国立公園内にあるので道案内の看板もありません。うっそうとした木々に囲まれ、恐竜が出そうな森と道をなんとか進みますが、だんだん細くなり不安になります。垂れ下がったシダ樹木の枝が車の屋根をこするようになって、引き返そうと思ったころ、いきなりモダンな建物が現れました。それも何で?と思うくらいモダンなコンクートの建物です。ホームページではなんとなく分かっていたのですが、驚きました。沖縄はしばらく前からカフェブームで、日本の他の地域でもそうなのですが、DIY的に作られたインテリアで、簡単に始めたお気軽カフェが多く、コーヒーや料理に少しがっかりする事が多くあります。ひょっとしてそういったお店ならご挨拶せずに帰ろうかなと思い、とりあえず、コーヒーとケーキを注文して座って見渡しました。

店内はBOOK CAFEというだけあって、片側一面には本棚があり、沖縄県に関係する本を始め沢山の本が並んでいます。厨房にはコーヒー豆の焙煎機が置かれなんでこんな山奥にこんな空間なんだろうと、、それにしても置かれている本もセンス良いし、、。やがて出てきたコーヒーとケーキの器と盛り付けを見て驚きました。カップ&ソーサーはマイセン、ケーキ皿はジノリ、チーズケーキは本格的で美味、焙煎されたコーヒーも美味しい、、。なんだか狐に化かされているのかもと思うくらいなんでこんな秘境にあるカフェで?と思いました。山奥で電信柱も無く上下水道もありそうもありません。でも、照明は付いていて、トイレは水洗でウォシュレットもあります。電気や水などのインフラ網に繋がっていないのになぜ?

オーナーの金城さんに、訪問の訳を話してお店の事や家具の話をお聞きました。民宿をしているお父様が持っていた土地で、宿泊施設を作ろうとしたが電気も水道も無く断念した土地でしたが、今の時代になってソーラーで電気を供給でき、下水を蒸発拡散させる装置などが作れるようになりオフグリッドでもエネルギーを自活して作る事ができたそうです。それでも電線が無いので電気会社には断られ、自ら電気技師の免許を取得してソーラーパネルや蓄電池を設置したり、山の水をフィルター設置して保健所の許可を取ったり、完成まで6年かかり相当な苦労があったそうです。そのせいで料理の勉強をする事を忘れたので、良い料理は出せませんと、、でも店で出されるチーズケーキや和菓子は都内の美味しいお店に負けていません。

建物はモダンですが、回りの動物達に配慮して景色が抜ける方向には明かりがもれるような大きな窓はつけず、落ち着いて本を読めるように音楽や家具にも相当こだわりがありました。ブックカフェという事で、図書館イメージで天童木工の水之江さんの椅子と、他にモダンな空間がしまるようなデザインで長く座れる椅子をさがしていて、当社のイリスにたどりつかれたそうです。椅子を名前で読んでいただいたにも驚きでした。店が完成したのはエリアが国立公園に指定される2ヶ月前で、後だったら作れなかったそうです。

環境に配慮したと言われる空間は作りが自然な作りで、人に我慢を求める事が多く、モダン化と環境問題は反するイメージですが、秘境の中でも環境に配慮したモダン建築とモダン家具で、快適さもあるという事を初めて知る貴重な経験ができました。皆さんもぜひ沖縄へ行かれた際はやんばる国立公園の原生林にあるBOOK CAFE OKINAWA RAILへ行って見て下さい。きっと驚かれます。でも、道に迷わないように、、。秋の新作の企画も進めていますが、ゆっくり本を読める椅子もいいかなと思っています。  (クリエイティブ・ディレクター/瀬戸 昇)

左上:やんばる国立公園内の原生林の道を走ります。心配になるくらい荒れた道です。左下:建物の開けた側には小さな窓で光が外に漏れて動物達に影響が少なくしています。右:建物の前には恐竜時代にあったような巨大なヒカゲヘゴがあります。建物はコンクリートのコンクリート打ちっぱなしのモダン建築です。
建物の中の山側には大きな窓がありますが、景色が良いわけではありませんが、風が通り鳥の声が響きます。道路側一面は本棚になっていて、部屋の中心にピアノが置かれます。チーズケーキが置かれた皿はリチャード・ジノリでヒカゲヘゴの葉が添えられます。和菓子は金城さんのお姉さんの手作りです。沖縄で桜餅が食べられるなんて、、。