COLUMN

2022.11.7 DESIGNER

ネオ70年代デザイン

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.137
11月9日からエーディコア・ディバイズの2023モデルの新作発表会がスタートします。今年のテーマは「NEW70’」として製品作りを進めてきました。その触りを少しお話ししたいと思います。70年代のインテリアイメージはヴィヴィットカラーやプラスチックのイメージを持たれがちですが、それとは違い今のインテリアに合うようにリデザインされたセブンティーズデザインに注目が集まっています。注目されたのはファッションの世界で1970年代が注目され、若者を中心に新しい70年代の解釈がされ、さまざまなデザインにも取り入れられています。アメリカのオークションサイトでは1970年代デザインのソファが高額で取引されるようになり、ミッドセンチュリー家具から70年代家具に人気が移りつつあります。

私自身、小学校から高校まで1970年代をリアルに過ごしたので、昭和時代のファッションは古臭く、特にあの時代のファッションのベルボトムパンツなんてもう絶対来ないと思っていましたが、1990年代以降に生まれたY世代やZ世代にとっては生まれる20年以上前の時代の事で、古い感覚より新しい感覚で、今のファッションと組合せて使われています。私がデザインという言葉に初めて触れたのは1975年のスーパーカーブームでイタリアカロッテェリアの存在に胸踊らせた中学生時代でした。家具に興味を持ったのは高校のインテリアデザイン学科に入学してからで、書店の洋書コーナーでイタリアのインテリア雑誌のINTERNIやdomusを手に取った時の衝撃は忘れられません。また、その時代の洋書にあったオリベッティのマリオ・ベリーニデザインのタイプライターの広告で工業製品の美しさを知りました。

1970年代は、世界ではウォーターゲート事件、泥沼化していたベトナム戦争のサイゴン陥落よる終結、中東戦争での石油ショックの発生、スリーマイル島の原子力発電所の事故など暗い事が続きました。日本では大阪万博、沖縄返還、沖縄海洋博など明るい出来事が多くありましたが、日本列島改造論からの急激なインフレーション、石油ショックでの景気低迷やトイレットペーパー不足噂による狂乱、青酸コーラ無差別殺人、ロッキード汚職事件など暗いニュースも多くあり、1970年代の世相は今の時代に似て、不安が続く年代でもありました。その不安な時代の70年代終盤にその不安さを和らげるように世界では、柔らかな新しいデザインが生まれインテリアデザインにも多く取り入れられ、低い柔らかな形のモジュラーソファや椅子のデザインが生まれました。

2020年からの新型コロナウイルスの影響で、多くの人は働く場所や生活環境を急激に変える必要がありました。その事からリラックスできる環境空間や、目に優しい色合いと身体的心地よさが求められるようになりました。心を落ち着ける効果のある暖色系のブラウンや開放的な空間や、柔らかな座り心地のソファなど、70年代の柔らかなデザインが今の時代にピッタリだったのではないでしょうか。もう一つの70年代のファッションは、この数年、カジュアルな洋服の着こなしに対して社会全体が容認し、ノーネクタイやデニムでの出勤が許されるようになり、スニーカーがトレンドとして認められるようになった事、この閉鎖的な環境から解放されるようにリラックスしたフバギースタイルやオーバーサイズのファッションが合ったからです。しかし、1970年代そのままでなく、より進化したファッションやインテリアスタイルに生まれ変わってきています。

エーディコア・ディバイズではこの数年、エフォートレススタイル、大人のカジュアルをイメージしてデザインを発表してきました。2023モデルでは「NEW70’」として大人の快適なネオセブンティーズデザインを発表します。デザインだけでなく、より環境に配慮したこれからの家具がご覧いただけます。ぜひ、東京広尾、大阪心斎橋、名古屋栄ショールームでお確かめください。今回もレコードジャケットをイメージしたカタログ持ち帰り用のバッグやお土産を用意してお待ちしています。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:1973年Richard Ohrbachが設計したマンハッタンデュプレックスのリビングルーム。この時代はモジュラーソファと呼ばれるシステムソファが多く出現しました。左下:1971年に発表されたランボルギーニ・カウンタックのプロトタイプ。初期型はシンプルで端正です。右:1970年代のオリベッティの製品と広告。マリオ・ベリーニデザインのタイプライターLETTERA35は一斉を風靡しました。
2022年のアメリカのインテリアシーン。1970年代イメージのインテリアの波が来ています。使われるソファや椅子はカルロ・コロンボやスカルパ、マリオ・ベリーニなどのデザインのソファで厚いクッションと丸いデザインです。1970年代のインテリアにはかたまり感のある低くやわらかなシステムソファが多く使われました。

2022.9.30 DESIGNER

アメリカ西海岸の今

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.136

久しぶりにアメリカロサンゼルスへ行ってきました。2020年2月から2年半ぶりの海外です。アメリカ西海岸建築ツアーが復活できるか、現地のコロナ感染の状況や建築インテリア状況を見る事が目的です。2年半ぶりのロサンゼルス空港は少ない入国者数で混乱も無く、短時間に入国する事が出来ました。日本と違うのはマスク無しの人がほとんどで、空港内でのマスク着用を呼びかける垂れ幕だけが虚しく揺れていました。レンタカー会社のカウンターに並ぶ人のほとんどはマスク無しで、マスクをしている方が恥ずかしく思えるほどで、コロナ感染は無かったような雰囲気です。急激な円安で覚悟はしていましたがレンタカーもホテルも値上がりで、2年半前の2倍近い値段になっています。

定宿のウエストハリウッドのホテルは改装が終わり新しくなっていましたが、駐車場代が2年半前に1泊32ドルだったのが55ドルになっていたのには驚きました。いつも行くスーパーのTrader Joe’sでの生活必需品の値上がりはそんなに感じませんでしたが、高級オーガニック系のホールフーズではかなり値段が高く感じる物が多く、一般的な食品でもクラスの価格差が大きくなっているようです。ガソリンは市内の安い所でレギュラーで1ガロン(3.78L)5.2ドルと日本円で約200円と、2年半前の3.5ドルとはかなり値上がりしています。一般的なハンバーガーのFATBURGERのオリジナルが6.5ドルでドリンク付けて10ドルなので、日本円で1,450円。日本では同じ物が980円なのでかなりの割高です。エリアの価格差も大きく、サンタモニカのアボットキニー通りの普通のテイクアウトのサンドウイッチが20ドルと3,000円近くするので、ランチで1人5,000円払う事もありました。今のアメリカではエリアやクラスの差が大きくなったと感じました。

感染予防で外食する事はありませんでしたが、街の飲食店は感染前の賑わいに戻っています。インテリアやファッションの店がどうなっているか、ラ・ブレアにあるショッピングセンターのグローブを見に行きました。ザ・グローブはショーッピングモールの中でも勝ち組でしたが、行くとアパレルショップの多くが閉店していて中堅アパレルの苦境を感じ、いつも行く2階建の大きなスペースを持つインテリアのクリエイト&バレルだった場所がアップルストアに変わっていました。今、世界の企業の中で最も収益を上げているアップルは各地で新ストアをオープンさせていて、ザ・グローブの新ストアは昨年11月にオープン、同時期にダウンタウンにもアップルタワーシアターを新オープンさせいました。現地でも話題になっている2箇所を見てきました。

現在、主なアップルストアはノーマン・フォスターが率いるイギリスの建築設計事務所フォスターアンドパートナーズが設計しています。Apple at The Groveはグローブの中で最も大きなスペースがあり、9.5メーターの高さの全ての天井には鏡面素材が使用されその鏡天井が外まで伸び、店舗内の空気感を外まで伝える効果があり、道の向こうを歩いているのに店舗内にいるような感じを受けます。外のファザードには横3メートル、高さ9.5メートルの大きな引き戸があり、開け放された扉から反対側の扉を通して自然換気されています。両側の展示壁の前には16本の生木のベンジャミンツリーが床下に掘られたポッドに植えら、天井の直線状の天窓から自然光が取り入れられ外にいるようです。また、外のベンジャミンツリーと一体になったインテリアが建物内と外の空気の境界を無くしています。シャープでモダンな素材とナチュラル素材の組み合わせは、こらからのインテリアの方向性を感じます。

ダウンタウンのApple Tower TheatreはLAのダウンタウンの大規模都市再生のプロジェクトとして1927年にチャールズ リーによって設計された映画館を再生した店舗で、特徴的な時計台とテラコッタファサードと漆喰のインテリアを復元し、劇場の天井中心にあるドームには南カリフォルニアの空を再解釈したフレスコ画が描かれていました。一階の客席部は展示スペースで、二階の階段席には革張りのベンチが置かれ使い方レクチャーの席として使用されています。様々なフォーラムを行うアップル劇場としての機能もある店舗でした。アップルザグローブ、アップルタワーシアターどちらの店舗も劇場的要素を入れ、売るだけでなくブランドの世界観を見せるための店舗は、世界で最も収益を上げる会社の勢いを感じる店舗でした。

ザ・グローブのアップルストアにいて当社の広尾本社を思い出しました。エントランスも吹き抜け展示空間の前に大きな樹木があり、3階の天窓まで届く大きなベンジャミンツリーはここより背が高いかもと。やはり、生木の植物は癒されるなと思いました、ちょうど、11月初旬の新作展示前の展示品セールが始まりました。この機会にショールームへお越し下さい。アメリカ西海岸ツアーは現地プロデューサーYASUKOさんの完全帰国に伴い2023年2月に最後のツアー開催を予定しています。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

Apple at The Grove ラ・ブレアにあるショッピングモール グローブの中にあります。左上:天井が建物外まで伸びて室内の展示台やグリーンなど映し出しています。左下:少しラウンドしているのか天井の鏡面に床の全てが映ります。天井の両側にはトップライトが一直線に伸びて、ベンジャミンに光を当てます。右上:前のステージの前には箱状のスツールが置かれます。右下:壁の両側にはベンジャミンツリー(フィスカ)が床の下のポッドに置かれています。ベンジャミンツリーはロサンゼルスの街路樹として多く使われています。
Apple Tower Theatre 左上:ロサンゼルスダウンタウンのアルデコビルが並ぶエリアにあります。左下:映画館の一階の道路側は窓になり、客席はフラットなショップで天井にはカリフォルニアの空がフレスコ画で描かれています。漆喰の造形が見事に復元されています。左上:二階の階段席の上はアクセサリー用品で前の階段席で使い方などのレクチャー席になっている。左下:ベンチシートは革張りでアームレストを前に倒せばコンセントが現れます。

2022.8.31 DESIGNER

人間工学のモジュールは許容範囲として

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.135
先日、人間工学セミナーを開催しました。1000名を超えるお客様にWeb参加いただきましたが、終了時に協力いただいているアンケートの感想やご意見の書込みが今までで一番多く、皆様からの反響の高さに驚きました。アンケートには「昔習った事を再度思い出した」、「参考資料を見て決めていた」、「人体寸法から割り出せれた数字が使われている事で認識が変わった」など沢山の感想をいただきました。今回の人間工学では高齢者のモジュールやカウンターの高さ、テレビを置く高さや距離など私自身も再度調べる事があり、勉強になりました。自分自身も人間工学的に高齢者(60歳以上)になっている事にもショックを受けましたが、何歳になっても勉強する事の大切さを知る機会になりました。

テレビの高さや距離については液晶やプラズマのハイビジョン対応の距離などの資料がありますが、メーカー推奨距離は4Kや8Kの高解像度からかなり近い観視距離になっていて、快適に見るための距離ではありません。現在のテレビの標準観視距離は,視力1.0で画素構造が見えなくなる距離で画面高の3倍以上とされていますが、この距離では画像自体を粗くなく見る事は可能ですが、画面全体を自然に見る事ができません。それは人間が自然に画像を見ることができる有効視野は左右30度程度だからです。高さは目線とテレビの中心の高さは同じと書いてある事が多いのですが、その高さは座る椅子やソファの座の高さや姿勢によって変わります。人間の日常生活での有効視野は上下20度程度でその範囲以内が最適な高さと言われます。しかし、楽に見る事のできる角度は-15度程目線を下げた状態です。この左右上下の有効視野は高齢になればだんだん狭くなってしまいます。

受付やキッチンの高さも人間工学から割り出されたモジュールで、カウンター高さは1000ミリ前後と決まっている事が多く、それに合わせて作る当社のカウンターチェアは座位点からの差尺は280ミリとしてSH750ミリ前後で設計されています。なぜ、この1000ミリのカウンターが決まったのか?と調べると、決まった理由については奥が深いものでした。郵政省のカウンター高さが1000ミリと決まったのは昭和46年ですが、人間工学的に人間が立った状態で肘を前に90度曲げた状態の床から肘頭までの距離、肘頭高(ちゅうとうこう)の高さと同じ作業台として1000ミリが割り出されました。これは日本でも検証されましたが、それより前にゼネラルモータース社のファーレイが男子と女子が立った状態の作業や上下の棚に手を伸ばす場合の台の高さなど標準値を定めた寸法が参考になっていますが、その時のモジュールは肘頭高距離が基本で男子で1050ミリ、女子で930ミリでした。現在でも日本人の平均から割り出された肘頭高の高さは男女平均1000ミリとして使用されています。

キッチンでは調理道具を使っての作業を行うために、その高さより100ミリ程度低い高さが良いとされ日本のJISではh800、h850、国際規格のISOではh900、h950となっていて、だいたいのメーカーからはこの4つのモジュールから選べるようになっています。これは日本人平均の肘頭高距離の1000から-100でh900となりますが、奥様が立たれる場合として女子の肘頭高距離平均のh964-100でh850が現在の標準キッチンの高さになっています。今は男性もキッチンに立たれる事が多いので、男女平均ではh900の方が男性女性両方が使える高さになるようです。しかし、私の母のように148センチの身長ではキッチン天板が高くステップを置いて料理をされている高齢者もいるのではないでしょうか?めったに台所に立たない身長180センチの父の方が使いやすそうでした。本当にその方に合ったキッチンの高さを出すためには肘頭高距離を測って、それから100ミリマイナスするしかありません。ご夫婦両方が使われる場合は平均値を、一方だけならその方に合わせた方が快適に使用できるようです。

産業に使われる人間工学の各部位は217箇所ありますが、モジュールは数百人の実際計測から平均値を出したもので、最高と最低からの5%の人は除外されます。その平均値から出されたモジュールですので、それから割り出されたモジュールを使っての製品は平均値から離れていない人は使用できるでしょうとの事です。洋服などでもサイズ感や下着など身体に合わせる必要がある場合はもっとサイズが細分化されています。しかし、家具など不特定多数の方が共有する場合は男女間の平均値で製作する必要があります。しかし、人間は器用なもので、ある程度の差は慣れで使いこなします。人間工学も絶対ではありません。許容範囲内で製品が作れる目安だという事を知る必要があります。

私自身は170センチと日本人の平均身長なので、自分が目安に作れるので恵まれた身体だと今では親に感謝しています。洋服など既製品が合うので、オーダーメイドはする事はありませんが、ジャケットなどは腕の長さが左右1センチ違うので、お直しに出します。メガネもまつ毛が長いので(鼻も低いのですが、、)鼻パッドが一体のセル素材の場合は、鼻パッドを金属の物に特注してもらいます。当社の家具はお客様一人一人に快適にお使いいただけるように、座の高さなど特注をお受けしています。ぜひ、ご相談ください。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

薄型テレビの人間工学設計:TVとの最適距離と設置高さのモジュール
立った状態での作業台の適正な高さ:肘頭高(ちゅうとうこう)の距離から割り出されています。参考 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 成人の人体部位寸法から 
カウンターチェアの設計モジュール:高さH1.000は郵政省のカウンター高さとして昭和46年に決められました。

2022.7.29 DESIGNER

時を超えるデザインはバランス

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.134

ネット版のArchitectural Digestを読んでいます。アーキテクチュラルダイジェストは1920年に発刊されたアメリカNYのインテリアデザイン雑誌で、毎年、世界で最も影響力のあるインテリアデザイナーや建築家を表彰するAD100リストを発表しています。その100人の中の半数以上は、デコレーターが占めており、アメリカでのインテリア業界の地位の高さを感じます。そのサイトで当社のカタログ撮影で使用したビバリーヒルズにある住宅の事が出ていました。オーナーはスパイダーマンで主演したトビー・マグワイアなど有名ハリウッド俳優のエージェントで、1957年に建てられた家での撮影と彼との話を懐かしく思い記事を読みました。

撮影に使ったのは10年近く前の2013年で、カリフォルニアスタイルのエーモードとネオクラシコの撮影をしたのですが、モダンでもクラッシックでも部屋によってどちらにも合う住宅でした。この住宅は2006年に購入後5年かけ改装し、撮影時には完成後2年経ていましたが、床のテラゾーが驚く仕上がりで、部屋から庭の隅々まで緻密で、アメリカの建築精度の高さを考え直す機会になりました。また、奈良美智や村上隆のアート、ジェフ•クーンズの花瓶など本物の現代アートが置かれたインテリアのセンスには驚きました。床が尋常で無い綺麗さで、メイドさんが床掃除の時に掃除機を使わせてもらえないと漏らしていて、撮影時に建物を傷つけないように作業をするのに本当に気を使いました。撮影で使用する家は本当に綺麗で特に男性一人で住んでいる家は一部の隙がないくらい整っています。

アメリカ西海岸のインテリアはそれぞれ個人の好みで作られて、これが流行ったから右に倣えではありません。この数年はヴィンテージ家具を使ったインテリアが多く、時代を合わせた古びた懐かしさを感じるインテリアではなく、その年代の建物を新築時の状態にレストレーションにさせる手法もあります。また、デザインされた時代ばかりを合わせるのではなく、違う時代の家具やアートをうまく合わせる事によって、新たなモダン建築へと生まれ変わらせています。そういったエクレクティックスタイルも新たに生まれたインテリアスタイルです。この住宅の写真を見ながら改装されて10年以上経っているのに、今見ても少しも古くなく、新鮮に見えるのは建物の綺麗さだけでなく、家具やアートのバランスなんだという事がよく分かりました。

撮影に使った家は1957年に建てられ、オーナーのエリック・クランツラー氏は子供の頃このエリアに有名コメディアンのダニー・トーマス家を見るためにお父さんに連れて来られ、この辺りに家を持つ事が夢になったそうです。2006年にこの家を購入し、デコレーターのブラッド・ダニングに依頼をして改装が行われました。ダニングはトム・フォード、ソフィア・コッポラを顧客に持つ有名デコレーターで、オリジナル設計に基づいて平面レイアウトを戻し、この家の唯一オリジナルで残っていた玄関とダイニングの床に使われていた人造大理石テラゾーを修復し、建築素材を全てアップグレードしました。撮影前に床の修復について、今はほとんど居なくなったテラゾーの職人探しから始り、施工に3年以上かけたと聞いてピカピカの仕上がりに関心しました。建物だけでなく、アート・ルナが手がけたランドスケープとの調和も素晴らしい住宅でした。

2013年に撮影したイメージカタログを見ながら、時を超える製品デザインも重要だが、時を超えるインテリアに置かれるのも大切な事を感じました。インテリアは建築と家具、小物やアート、カラーなどバランス感がとても大切で、どちらかが突出しても低くてもダメなんですね。家具単体でなく置かれる空間をイメージできるかが、これからのデザイナーに求められるように思います。今は2023年モデルの新製品デザインの佳境です。お楽しみに!

(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

ビバリーヒルズの1957年に建てられたエリック・クランツラー邸。左上:ラウンドした赤みがかった石が特徴のミッドセンチュリー住宅。右上:玄関から部屋全体へ続くテラゾーの床。左側の中庭には竹が植えられています。左下:青いタイルの中に金のタイルが散りばめられた爽やかなプール。右下:アート・ルナが手がけた庭は裏山のアガペやクチナシの木々がバランス良く配置されて裏庭でも手抜きがありません。
2013年に撮影されたエーディコア・ディバイズのスタイル写真。フランス人カメラマンのドミニック氏撮影。左上:奈良美智の犬の像が置かれたフォーマルダイニングでMD-503とMD-107Lの撮影。右上:ペンダントライト下のファミリーダイニングに置かれたMD-501セット。左下:赤い石の暖炉のフォーマルリビングに置かれたMD-601ソファ。右下:裏庭に面したカーペットの部屋に置かれたネオクラシコブランドのソファセット。

2022.6.30 DESIGNER

運命の出会い

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.133
山下達郎が11年ぶりの新しいアルバム「SOFTLY」をリリースし、オリコン週間アルバムランキングで1位になりました。山下達郎は1973年活動開始で、もうすぐで50周年になることもあり、雑誌BRUTUS最新号でも山下達郎特集が組まれています。矢沢永吉、松任谷由実、桑田佳祐など65歳オーバーのアーティストの存在感がコロナ禍の中で増しています。さっそく「SOFTLY」を入手し、その中の「LOVE’S ON FIRE」のPVをYouTubeで見ましたが、山下達郎らしい都会的な曲とENDoの軽快なダンス動画は、達郎の年齢を重ねても今の空気を感じ取れる仕事は流石というしかありません。

初めて山下達郎を聞いたのは「RIDE ON TIME」で1980年大学生になった時でした。その後、1982年リリースのアルバム「FOR YOU」でファンになり、今でもiPhoneで「FOR YOU」を良く聞いています。新しい音楽は聞くようにしていますが、山下達郎の40年経た音楽が今でも新鮮でお洒落に感じるのは本当に凄いと思ってしまいます。大学生の時に感じた新鮮さと時間を経ても色褪せないセンスは私自身の仕事の手本にもなっています。昔は音楽を聴くのはレコード盤から入れたカセットテープで、山下達郎のアルバム「FOR YOU」もレコードジャケットを見て、なんて格好良いグラフィックデザインなんだと感心し、デザインの仕事でこんな方と仕事ができればと憧れていました。若い時は雑誌やレコードジャケットでデザインセンスを吸収するしかありません。ファッション雑誌の「流行通信」もその頃センスを磨くために良く見ていました。

社会人で家具のデザインをするようになり、家具デザインだけでなく、カタログ作りや撮影などPRする仕事も物作り同様、とても重要な事を感じて、様々な分野の方と一緒に仕事をするようになりました。2000年から高原宏さんというグラフィックデザイナーの方と仕事をするようになり、当社の広告やカタログ、海外撮影のディレクションなど多くの仕事をご一緒してきました。私自身、何をされていたより、今の仕事が重要だと思っていたので、高原さんが何の仕事をされてきたのかあまり聞いた事はありませんでした。何年か経ってふとした話から、高原さんが山下達郎や宇崎竜童のレコードジャケットを昔から手がけられていて、流行通信のアートディレクターをされていたと聞いて、本当にびっくりしました。学生時代に憧れた山下達郎の「FOR YOU」も高原さんの仕事で、その方と偶然仕事を一緒にしていた事に運命を感じると同時に、お互い引き合っていた事を感じました。

高原さんからいつか聞いた事ですが「FOR YOU」のジャケットデザインをする前、レコーディングスタジオで山下達郎さんからヘッドフォンを渡されて「自分がこだわっている音を聞いて欲しい」と言われて何回も聴いたそうです。残念ながら高原さんにはそのこだわりは分からなかったそうですが、それだけ音へのこだわりを高原さんへ教えたかったんだと思われたそうです。一緒に仕事をしてものすごく勉強になったそうです。瀬戸さんと仕事をしていてこだわりの部分と達郎さんが一緒だなと思った事が何度もあったと。達郎さんは職人気質が非常に強く、自分の中で消化した独自の理論があり勉強になりますが、瀬戸さんと話をしていると同じだなと何度も思ったと、、。憧れの山下達郎と一緒と言われて嬉しく思った事を思い出しました。

高原さんは温厚な人柄で人の話をじっくり聞いて仕事をされる方で尊敬できる人の一人です。「BRUTUS」山下達郎特集の中にお名前が出てきます。撮影のカメラマンの丸山さんやフランス人のドミニックさんやロスのプロデューサーのYASUKOさんなど尊敬する方々と仕事ができる事に運命を感じる日々です。コロナ禍で会えない日々が続いていますが、そろそろ海外ロケハンを兼ねた取材に行こうかと思っています。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:山下達郎1982年リリースのレコードアルバム「FOR YOU」裏を見ると高原さんのお名前がありました。他に「甘く危険な香り」「高気圧ガール」1983年の「クリスマス・イヴ」「RIDE ON TIME」など多くのデザインを手がけています。左下:アメリカ西海岸をはじめ撮影には必ず立ち会ってディレクションされます。右上:初めてアメリカでロケ撮影したカットで、1923年にフランク・ロイド・ライトJrが設計した住宅です。右下:毎年開催している納入写真コンテストの審査もお願いしています。中はフォトグラファーの丸山さん。