COLUMN

2021.12.27 DESIGN

名作ヴィンテージ家具のリペア

AD CORE DEVISE DESIGN BLOG Vol.116
日本ではあまり浸透していませんが、エーディコア・ディバイズのカタログ撮影で訪れているアメリカの西海岸では、ミッドセンチュリーの家具を中心にヴィンテージの家具の取引が盛んで近年はますますその価値が高まっています。基本的には同じ仕様の新しい製品が購入できるにも関わらず、何十年も前のヴィンテージ製品が新品の何倍もの価格で取引されます。自動車や住宅もそうですが、欧米では旧いものを価値を高めながら大切に使い続ける意識が高いのですが、日本では「中古品」のイメージが強くあまり価値を見出しません。お国柄、文化の違いなのかもしれません。

先日、瀬戸が旧くからお世話になっている設計のお客様から、自宅でお使いになる家具のご相談があり、ショールームにお越しいただきました。20数年前に、宿泊施設や保養所など様々なお仕事をご一緒させていただいた方です。ソファやテーブル、特注の収納のご注文をいただいたのですが、今お使いの椅子のことで相談をいただきました。何十年もご自宅で使っている椅子が傷んでいるので補修ができないかと、1脚の椅子をお持ちになりました。塗装もかなり劣化し、座面も痛んでいましたが、デンマークの家具デザイナー Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)氏の最も有名な椅子の一つ The Chair と呼ばれている JH501でした。フレームの接着も一部切れていて若干の歪みが出ていましたが、新品にはない「味」がありました。お客様はこの椅子の出所の記憶が曖昧だったのですが、実はこの椅子、その昔瀬戸がプレゼントしたものだったのです。

The Chair は、1949年にデザインされた椅子で、1960年のアメリカ大統領選でジョン・F・ケネディー氏とニクソン氏がテレビの討論番組で使用されたことでも有名です。お持ちいただいた椅子は、50年代のオリジナルではありませんでしたが、現行品とは仕様も造りも異なるヴィンテージ品。普通に使える程度に補修のご希望でしたが、雰囲気を損なうメンテナンスを施したくはありません。現在の状態を踏まえて、瀬戸の指示の基、メンテナンスを行いました。まずは表面の塗装剥離と仕上げ直しです。オーク材に染み込んだ劣化した塗料は導管に入り込んでいて中々落ちないのですが、開発スタッフの富所君が、初めは恐る恐る慎重に、時間を経るに従って大胆に仕上げ直しを進め、フレームのガタつきは接着をし直しました。座面の張り直しと塗装仕上げは九州の工場にお願いして、ヴィンテージ感を損なうことなく見違えるような仕上がりになりました。メンテナンスに携わった富所君も無垢材の質感や研磨の手加減、名作と言われる家具の仕口なども勉強になったようです。

先週、ご注文をいただいた家具と一緒に、メンテナンスを施したThe Chairをお届けしました。ご注文をいただいた家具はもちろん、メンテナンスを施したThe Chairの仕上がりもとても喜んでいただけました。何十年も使い続けている椅子をリフレッシュしてさらに使い続ける、まさにSDGsの意識そのものです。当社の製品でも、今週20年以上お使いになったチェルボのメンテナンスの依頼をいただきました。70年以上の歴史を持つThe Chairにはまだまだ及びませんが、当社の製品もヴィンテージの家具と呼ばれるまで頑張りたいと思います。(開発 武田伸郎)

左上:長年の使用で痛んだ座面 左下:座面のクッション材も劣化して弾力性が失われています。 右上:フレームの接着も切れてしまった箇所は仕上げ直した後、接着剤を注入して組み直します。 右下:古い塗装を研磨してフレームも組み直し。素地の状態で仕上げ直しを施しました。
ヴィンテージ感を残したまま、塗装を仕上げ直し蘇ったThe Chair。座面にはしっかりした天然皮革に張り替えました。これでまた、何十年も使える椅子に生まれ変わりました。

2021.12.1 DESIGN

脱炭素社会への取り組み

AD CORE DEVISE DESIGN BLOG Vol.115
取り組みが始まった当初は、賛否両論があり、ちょっとした混乱もありましたが、今やお買い物の際には袋が有料になる事は常識になりました。世界的なカフェチェーン店がプラスチックのストローを廃止したり、プラスチックのゴミを出さないようマイボトルを活用したりと、大手企業が進めているカーボンニュートラル(脱炭素社会)とは別に、これまでの環境対策より一歩踏み込んだ対策が私たちの生活にも定着してきたようです。

サスティナブル、SDGsの取り組みも広がっていますが、家具を製作している私たちに最も関連があるのが、二酸化炭素の排出を削減して地球温暖化を抑える脱炭素社会への取り組みです。2021年は脱炭素社会元年とも言われており、大手企業ではSDGsの対策を大々的に進めていますが、エーディコア・ディバイズでは、ブランド発足当時からSDGsの指標に沿ったモノ創りを行なってきました。大量消費が経済の主役だった1980年代。たくさん生産し、単価を可能な限り抑えて最大数を販売する。旧くなったモノは新しいものに買い換えて消費する時代でした。そんな時代に、当社ではご注文をいただいたものだけを製作し、メンテナンス性を重視した永く使い続けることが出来る製品を送り続けてきました。製品化したものは廃盤にせず、発売から30年以上経過したモデルでも製品として今も生き続けています。

そして今、新たに取り組んでいるのが、カタログなどの印刷物の削減や、配送に使われる梱包材の化石燃料を原料とする資材を廃止する取り組みです。大切な家具をお届けした後に残るたくさんの梱包材。4人家族のご家庭にダイニングセットをお届けした場合、椅子4脚とテーブル1台分の梱包材が残ります。擦り傷や打痕を防ぐ「ミラーマットシート」やビニール袋、保護材の発泡スチロール等は、家庭用のゴミで処分するのも大変です。商業施設などの大規模な物件の場合、養生や梱包材の処分だけで、スタッフやトラックの手配が必要な場合もあります。梱包に使用された資材は「残材」と呼ばれ、1度しか使うことがありません。誰もがもったいないと感じている資材ですが、効果とコストの兼ね合いから廃止できないのが現状でした。

エーディコアでは2022年から新たな取り組みとして、化石燃料を原料とする梱包資材を廃止することにしました。リサイクル資材を積極的に取り入れ、環境に負担をかけない製品創りを目指していきます。コスト対策や製品配送の安全性など、難しい課題がたくさんありましたが、今取り組むべき事として出来ることから積極的に行なっていきます。日々改善を重ねてより良いSDGs、カーボンニュートラルへの対応を進めていきたいと思います。(開発 武田伸郎)

SDGs対応のソファの梱包仕様。発泡スチロールやビニール袋を廃し、不織布で包んで出荷します。
現状の製品梱包の状態。出来るだけ簡素に環境に配慮した梱包を目指していますが、発泡スチロールのスペーサーや製品を包むビニール袋などは使用しています。

2021.10.26 DESIGN

2022年モデルとこれからのインテリアスタイル

AD CORE DEVISE DESIGN BLOG Vol.114
エーディコア・ディバイズでは、製品やアイテムの特性、デザインに合わせて家具に用いる樹種を選定しています。それぞれの樹種が持つ木肌の表情や風合い、椅子やテーブルの場合は強度的なことも考慮して材料を決めています。今年の新製品2022年モデルでは、SDGsの対応やサステナビリティの観点から製品のデザインと合わせて、樹種や素材の選定を行いました。今回の製品では、エーモードでお馴染みの森林循環型の樹木としてサステナビリティ性の高いホワイトアッシュ材の他、天然のチーク材と、天板トップに人工大理石のバイオマーブルを使った製品を開発しました。バイオマーブルは植物由来の原材料を50%以上使用した環境に配慮した素材で、6ミリのメラミン樹脂素材により傷が付きにくく永く使える素材です。

今年の新製品のテーマは、欧米のインテリアスタイルだけでなく、純和風な空間にも溶け込む快適性を持った家具、大人のインテリアスタイルです。日本の建築様式が源流とされるカリフォルニアスタイルのインテリアを進化させ、様々なインテリアスタイルに融合する、汎用性の高いデザインが特徴です。そして今回、初めてアウトスペースでもインドアでも使用できる多様性のあるダイニングチェアとテーブル MD-1201HOとMD-1202HO を発表しました。室内から屋外へとつながる、アウトスペースをインテリアに取り込むような空間、広がりと解放感を感じさせる自然を取り込んだインテリア、そんな空間に使っていただくためのアイテムです。そのシリーズに使用しているのが、「木の王様」と呼ばれるチーク材です。

チーク材は以前から高価な木材でしたが、現在はさらにその価値が高まり貴重な材料となっています。その希少性から伐採が進み枯渇の恐れもあったのですが、現在は計画的な伐採に加 え 循環植林を実施しています。当社では森林省から計画的に伐採され承認された天然のチーク材のみ使用して製品開発を行いました。チーク材は優れた耐久性を持ち、非常に強靭で磨耗にも強く木材として非常に優秀な材料ですが、チーク材の人気を誇る一番の理由は、木材としての美しさにあります。独特のツヤ感が美しく、経年変化もまた格別です。室内で利用されていた材は濃厚な飴色へと変化し、屋外で使われていたものはシルバー調の色に変化していきます。チークで作られた家具は耐用年数が非常に長く、「ヴィンテージ品」としてその姿を現代に残すものも多いのですが、チーク材の真価がより強く現れるのは「屋外で使用」されたものです。そのため、船舶の材料に多く用いられたのですが、そんなチーク材の特性を活かした、アウトスペースでも使用できるダイニングチェアとテーブルが、今年発表したMD-1201HOチェアとダイニングテーブルMD-1202HOです。

新型コロナウイルスの感染もようやく落ち着いてきましたが、アフターコロナと言われる感染対策は今後も続いて行くと思われます。身の回りの除菌や消毒、外気を積極的に取り込む開放的なインテリアスタイルはこれから必須になるのではないでしょうか。たくさんの人とコミュニケーションを取りながら気持ちの良い時間を過ごせる、そんなインテリア空間に使っていただきたいのが今年の新製品です。東京、大阪、名古屋の各ショールームに新製品を展示していますので是非ご覧になってください。(開発 武田伸郎)

室内からアウトスペースへとつながる外気を取り込んだ空間にお使いいただける、MD-1201HO、MD-1202HOのダイニングセット。チークの素材感が際立ちます。
左上:屋内でお使いいただいてもチーク材の美しさが引き立ちます。 左下:脚部の固定ボルト、無垢板を固定するパーツもアウトスペース対応のステンレス材を使用 右上:チーク材テーブルの断面図。天板トップには15ミリ厚の無垢材を使用しています。 右下:チーク材のソリッド感を活かした天板のフレームと脚部の美しいライン

2021.9.29 DESIGN

2022モデル・スタジオ撮影レポート

AD CORE DEVISE DESIGN BLOG Vol.113
新型コロナウイルスの感染拡大の影響下で、あっという間に夏が過ぎてしまった感がありますが、ここにきて気温も下がってきて一気に秋めいてきました。そんな折、今年も新製品の開発を粛々と進めていたのですが、今月製品の試作もようやく完成してスタジオとロケーションの撮影を行いました。通常のローテーションなら、LAの海外撮影の年に当たりますが今年はもちろん実施が出来ませんでした。今回は企画の段階から国内撮影の計画を練り、イメージとストーリーを固めていきながら、ロケハンを敢行。いくつものロケーション場所を廻ってここぞという場所を選択し、始めに製品カットのスタジオ撮影へと突入しました。

スタジオ撮影は、イメージやスタイルを表現するロケ撮影とは異なり、各製品のデザインやフォルムの特徴を捉え、ニュートラルに撮影する現場になります。ここ数年はスタジオやストックヤードの広さと照明機材の利便性から、お台場にあるスタジオを使用していたのですが、今年はスケジュールが合わず神奈川のスタジを使用しました。このスタジオも非常に広いスタジオで、搬入もし易くとても使いやすかったのですが、お台場のスタジオにある「エアーバンクライト」という照明機材がなかったため、一般的な照明セットを組む必要がありました。エアーバンクライトは、天井のフレームに照明が組み込まれていて、自然で柔らかい光を電動で調整できる機材で、高さや向き、角度も自由に変えることができます。どこにでもある機材ではないのですが、この機材がないとスタンドを立てて照明を設置することになり時間がかかるのですが、今回はスタートダッシュを掛け撮影を進めました。

家具の撮影でとても重要なのが、光の当て方と影の演出です。エアーバンクライトがあるとベースとなる自然な光の設定が速やかに出来てセッティングも楽なのですが、今回はその設備がありません。しかし、今回はスタッフの機敏な動きと広いスタジオを活かして撮影の島を2つセットし、メインの製品撮影と、瀬戸がカメラマンとして数十カット撮影した、説明カットの撮影を同時進行で行いました。今年の製品はサイズが大きいものがあり、引いたアングルの撮影が多く製品の組み替えがいくつもあったのでセットが大変だったのですが、スタジオが広かったため移動もスムースで、予定の時間内に撮影を完了することができました。

昨今の流れとしては、デジタル修正前提の撮影が当たり前になって、とりあえず撮ってしまえば影でも色でも調整してしまう傾向にあります。しかし当社では、自然な光で素材感や色調を表現する撮影にこだわってきたので、ライティングのセットが最も重要です。今年の新製品は、久しぶりに使う樹種の無垢材の製品もあり、素材感を活かした撮影を意識しました。製品作りにもこだわりましたが、撮影にもこだわって良い画像が撮れたと思います。来月から始まる2022 ニューモデル新作展示会で、ぜひご覧になってください。撮影した画像で製作したタブロイドをご用意してお待ちしています。(開発 武田伸郎)

今回のスタジオ撮影は神奈川。とても広いスタジオで搬入設置も助かりました。カメラの位置やアングルの設置、モニターで確認しながら撮影を進めます。
右上:お台場のエアーバンクライトシステム。天井に設置された照明が電動で自在にセットできます。右下:一般的にはスタンドを当ててレフ板に照明を当てて自然な光を演出します。左:スタジオに設置したもう一つの撮影スペースで、製品ディテールを撮りまくる瀬戸

2021.8.27 DESIGN

優れた特性を持つセラミック素材の天板加工

AD CORE DEVISE DESIGN BLOG Vol.112
昨年、コロナ渦の中発表したテーブルシリーズMD-1102は、標準規格で抗菌塗装・オプションで抗ウイルス塗装対応の木天板と、薬品や消毒液にも耐性のあるガラス天板のバリエーション、さらに黒大理石調のセラミック天板をご用意しました。発売後、セラミック天板の受注が増え、白いビアンコカラーラ模様を追加しました。セラミックは、耐熱性に優れ天然大理石のように水分が染み込んでシミになり難いなど優れた特性を持っています、さらに金属より高度が高く傷が付き難いため、傷に菌が入り込むこともなく衛生面にも優れています。優れた素材特性を持つセラミックですが、加工が非常に難しい素材です。今回は、MD-1102のセラミック素材が天板トップに仕上がるまでの工程をご紹介したいと思います。

テーブルトップやカウンターの素材としては、取り扱いも容易で木製家具の工場でも加工が出来る樹脂製の人工大理石が一般的ですが、セラミック素材は、表面硬度が非常に高く割れやすい素材なので、専用の工場での加工が必要になります。素材の原盤が3メーターと非常に大きく割れやすいので、配送はもちろん工場内での移動だけでも慎重な取り扱いが必要です。さらに裏面に割れ防止のFRP樹脂加工が施されいて、カット面が欠けてしまうので一度に定寸に仕上げることができません。初めに、カッターの刃に工業用のダイアモンド砥粒を使用したブリッジカッターで粗取りをします。水を流しながら作業台の合板も一緒にカットするため、作業台の合板も一度しか使えません。次に、粗取りしたセラミック板の裏面外周を、木天板に接着した際にピッタリ密着するように割れ防止のFRPを研磨する作業を手加工で行います。その後、ようやくウォータージェットカット器に板を移動し、正確な寸法にカットします。

仕上がり寸法にカットされたセラミック板は、専用の側面研磨機で小口面をダイアモンドパッドで磨いて仕上げていくのですが・・・MD-1102のセラミックは厚みが6ミリと非常に薄いため、クランプで固定する機械にセットする事が出来ません。薄く硬い素材なので加工中に割れてしまう危険性があるためです。そのため、ここでも手加工の仕上げを行なっています。面取り加工も同様で、ウォーターサンダーで#100~#500、#800と丁寧に加工し、最終仕上げとして小口面を専用のワックス研磨剤で磨き上げ、テーブルトップ素材が完成します。

デザイン性、素材感、機能性など全てにおいてグレードの高いセラミック素材。高価な素材ではありますが、テーブル製品の素材として仕上げるまでに、時間と手間を掛けています。画像を見ていただいてもその素晴らしさを感じていただけると思いますが、ぜひ実際に手で触れてみてその素材感を確かめて下さい。各ショールームには各種サンプルもご用意しています。皆様のご来場をお待ちしています(開発 武田伸郎)

左:作業台に慎重に置かれたセラミック板 右上:3mの大きい原板をカットするブリッジカッター 右下:水を流入しながら粗取りカット。作業台の合板も1回で新しいものに交換します
左上:ウォータージェットカッター器。正確な寸法にカットします 左下:側面研磨機。クランプで固定しダイアモンドパッドで小口面を仕上げる機械 右上:セラミック裏面に施された網目状の割れ防止FRP樹脂を、外周だけ研磨して平滑に仕上げます 右下:丁寧に仕上げたセラミック材を木天板に接着します