COLUMN

2025.8.29 DESIGNER

天然と人工のレザーとレザーフリー

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.171
先日、久しぶりに接客対応をしました。そのお客様はご家族と最終確認に来られたのですが、前回来社された際に故郷の高知出身のお客様ということで親しくお話しさせていただきました。今回は検討中の製品についてアドバイスを求められました。現在検討中の製品が空間と合うか、小さなお子さんがいるので、使用予定の素材の耐久性などについて、私自身は営業とは違う観点で考えるので、自分ならといろいろお話をさせていただきました。座り心地では、お客様が検討されていた製品とは違う製品を示して、椅子は腰当たりで長く座れるかが決まることや、素材の耐久性の違いや使い方などを提案しました。せっかく決まっていた製品や素材だったのに、営業担当に申し訳ないなと思いながらも…。

使用される予定のファブリックは人工レザーだったのですが、それを見て「何年くらい使われますか?」とお聞きすると、孫が小さいので汚れにくく耐久性があるものが良いと思い、耐久性の高い人工レザーを選ばれたとのことでした。私からは「6年程度なら人工レザーの方が良いかもしれませんが、10年以上使うなら天然革に勝るものはありません。」とお伝えしました。私と同年代だったので「昔はビニールレザーが使用されていた車やバイクのシートは劣化して割れており、最近では使われませんし、最近は耐久性が上がっていますが革には勝てません」とお話ししました。そう話をさせていただき、接客担当に変わりました。後から、営業担当者が製品がグレードアップし素材も革に変わったと喜んでいたので、お客様が提案したものに変えていただけたことがわかりました。

人工レザーの方が天然皮革より耐久性が高く汚れにくいという認識は強く、素材自体が劣化するということはあまり知られていません。人工レザーは素材によりますが、湿度や紫外線で劣化が進みます。これは製品素材が生産された後から始まります。天然皮革や天然素材のファブリックは環境によって劣化や退色することはありますが、素材自体が溶けたり崩壊することはあまりありません。昔の自動車のシートの割れなどは良い例で、私自身もスニーカーのスタンスミスで本体の革が大丈夫なのに、後ろのブランド名の緑のタグがボロボロになったことや、母の遺品整理をしているときに見つけた40年近く前のイタリアからのお土産のブランドバッグが表面の革はまったく何もなっていないのに、中を開けると内装の人工レザーがベトベトに溶けてしまっていた経験など、人工レザーの劣化を経験しています。一方、若い頃に買った天然皮革のジャンパーや革靴は今でも現役で使えています。

最近、レザーフリーやアニマルフリーとして、本革を使わないことを聞くことが多くなってきました。動物の本革を使用しないということで、動物を殺さない動物愛護ということでスタートした運動で、一部のファッションブランドから始められました。その代わり、植物由来のヴィーガンレザーが注目を集めるようになりました。ヴィーガンレザーといっても多くの製品はまったく石油由来の素材を使用していないわけではなく、下地に天然素材を使用し、表面にはポリウレタンやPVCをコーティングして作られています。自動車メーカーでもレザーフリーをPRする会社が海外では増えてきました。アニマルフリー運動は毛皮素材のためだけに飼育されるミンクやフォックスやワニやヘビなどのエキゾチックレザーと混同されていて、車や家具に使用される革は100%食用肉の副産物です。命ある生き物を殺して生活している私たちはその命を100%いただくことで持続可能な生活ができるのではないでしょうか。

天然皮革が耐久性が高い理由は下地の強さにあります。天然皮革はコラーゲン繊維が絡んでいる下地、その上に銀面と言われる強い表皮層が一体化していて、その上にウレタン塗装などの染料を塗布しています。皮のコラーゲン繊維を鞣して革にするために、クロムなめしやタンニンなめしを使用します。そのクロムなめしのクロムが六価クロムと誤解されていますが、クロムなめしに使用されるのは自然界に存在する三価クロムです。限られた予算とある程度の耐久性では、人工レザーの方が優れていますし、メンテナンスさえすれば長く使えるのが天然皮革です。用途によってお使いいただければと思います。私も知らなかったのですが、2024年3月に日本産業規格(JIS K 6541用語)が改訂され、「革」および「レザー」という用語の定義が厳格化されました。この改訂により「革」や「レザー」と呼ぶことができる製品は動物由来のものに限定されることになったそうです。

30年以上前に購入して修理しながら履き続けた革靴も裂けてきたので、役目を終えようとしています。何度も修理をして足になじんだ革靴を諦めきれずに、磨きながら捨てようか悩んでしまいます。今の自動車は電気パーツが多いので、10年以上使うことは考えなくても良いので人工レザーの使用が進んでいるのかな…と思いました。そろそろ2026モデルの新作試作の素材を決めないといけません。今年で40年になったエーディコア・ディバイズです。50年に向けての素材選びも重要です。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

天然皮革と人工レザーの表裏。上から 天然皮革(クロム仕上げ)、PUレザー (ウレタンレザー)、PVCレザー (塩化ビニルレザー)。天然皮革(1.2ミリ厚)は繊維層の上の銀面にポリウレタン塗装を塗布したもの。革は下地と表面の境がなく一体の素材で下地の繊維層が厚い。引き裂きや擦れに強度があり熱にも強い。PUレザー: 柔らかな不織布にポリウレタン樹脂をコーティングしたもの。天然皮革に近い風合いや柔らかさを持っています。湿気や紫外線、熱に弱い。加水分解など起こしやすく表面のベトつきや剥がれが起きやすい。PVCレザー : メリヤスなど織物にポリ塩化ビニル樹脂をコーティングしたもの。耐久性が高く、汚れに強く、価格が安価。湿度や紫外線、熱に弱い。年数が経つと硬くなり割れてくる。
左:購入してから30年以上経つUチップの革靴。スグッドイヤーウェルト製法で作られています。裏は革底でしたが、ゴムのビブラムソールに張り替えのオールソールを2回して、踵は4~5回交換しています。外はまだ元気ですが、中と履き口が裂けてきたので、限界かもしれません。補強すればまだ履けるかな、、。右:革ジャケットでゴート(山羊)のタンニンなめしの革を使ったもので、33年前に横浜元町のトゥモローランドで購入しました。表面は色褪せして袖口は擦れてきましたが、まだまだ現役です。私が死ぬまで使えそうです。

2025.7.30 DESIGNER

インテリアと現代アートの源流は

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.170
今年の2月、ロサンゼルスで撮影や取材でお世話になっていたYasukoさんがウエストハリウッドの自宅を売却し日本へ完全帰国されました。ご両親がお住まいだった埼玉のマンションに住まいを移されたのですが、長年住んだロサンゼルスの家にあったアートや家具をオークションで販売し、残したいお気に入りのアートや家具だけを日本へ持ち帰りました。日本での住まいはご両親が残されたマンションなのですが、そこにも医院をされていたお父様のアートコレクションが沢山あり、持ち帰っても壁に飾り切れないアートが沢山ありました。ロサンゼルスの自宅にお伺いしてる時から、瀬戸さんに家具のコレクションから差し上げるからと、1950年代の椅子を数点いただく事になり、帰国されてから車で取りに行きました。川口のマンションにはロサンゼルスから持ち帰ったお気に入りのアートが所狭しと置かれていて、飾れないアートが廊下の床に立てかけられていました。

医師だったお父様のコレクションも大変な物で、ベルナール・ビュッフェのリトグラフや絵画、1950年代に来日したアンリ・マチス本人から購入したという絵画など美術館級の絵画が沢山あります。その中にロサンゼルスのYasukoさんのコレクションが加わりました。そのコレクションはインテリア関係者なら垂涎のル・コルビュジエの手書きアートやターナーの絵画など、、数だけでなく質も美術館級の質と数のコレクションになりました。私には家具だけでなく、新しく移転した六本木本社ショールームの為にと、何点かのアートやカメラマンのポートフォリオやヴィンテージのテーブルスタンドランプなどをいただきました。その中にはロイ・リキテンシュタインのリトグラフの三連作品があります。そのリトグラフの額装を修理とクリーニングし、ピクチャーレールの工事を行い、六本木本社のミーティングルームのバックカウンターへ飾りました。

このリトグラフはYasukoさんがアメリカの画廊で購入した物で、1964年にリキテンシュタインが油彩で制作した「 As I opened fire/アズ・アイ・オープンド・ファイア」という作品を基にしたリトグラフで、航空機による戦闘中の短い数秒間を描いたこの絵画は、物語を表す3つのパネルに基づいていて、リヒテンシュタインの最も野心的な作品で視覚的に対立する要素を奇妙に融合させた作品と評されました。いただいたリトグラフ作品はオリジナル油彩とは違いますが、リプロダクションの印刷物ではなく、初版のリトグラフ作品のようです。リヒテンシュタインのオリジナルの油彩なら気の遠くなるような高額なアートになりますが、リトグラフでも価値はなかなかな物だと思います。作品のサイズも三連の作品が入った額は横幅が1.8メートルあり、飾るには場所を選びます。広くなった六本木ショールームの空間があればこの作品が映えるように思い飾る事にしました。

ロサンゼルスに訪問するようになり、住宅の壁面に何も飾られない白い壁だけという事は無く、大きな現代アートがバランスよく置かれ、インテリアの一部として使われている事が良く分かりました。ビバリーヒルズの住宅では美術館に置かれるようなサイズの奈良美智の彫刻が置かれたリビングや、ジェームズ・タレルの光のアートが庭に作られていた住宅など、アートが生活の中に溶け込んでいる事を知り、美術館の白い空間に置かれる物がアートと思っていた事が、アートは生活のインテリアの中に存在するという事に認識が変わりました。これはカリフォルニアスタイルとして庭とインテリアの融合というスタイルだけでなく、襖絵や屏風といった巨大なアートがインテリアの一部になっていた日本のインテリアスタイルまでもアメリカに持ち込まれた結果なのかもしれません。日本ではいつの間にかそのインテリア手法が忘られ、アメリカに持ち込まれたカリフォルニアスタイルで日本の本来のインテリアが進化していました。

日本で販売されるアートの主流のサイズは10号(530×455mm)と言われています。高校の美術部で描いていた油絵も8~10号がメインで何の疑問も持たずに決められたキャンバスサイズで描いていました。このサイズは今から思えば、ヨーロッパ絵画の肖像画や風景画から来ているのかもしれません。アメリカでも写真などは小さめの額に入れられて飾られますが、一枚だけということは無く、複数枚で壁を飾られます。今、海外では茶室に見られる禅スタイルの何も無い空間も人気ですが、本来、多くあった襖や屏風絵を使った日本の伝統的なインテリアスタイルの方が、アメリカのインテリアに浸透したのかもしれません。

8月お盆休み明けにミラノレポートを開催します。今年はミラノレポートはお休みする予定でしたが、お客様のリクエストが多く社内研修で行ったレポートをお届けすることになりました。ヨーロッパとアメリカ西海岸でのインテリアの作り方は少し違うように思います。今回は辛口が多いかもしれません。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:ビバリーヒルズのハリウッド俳優エージェントの家のリビングルーム。奈良美智の巨大なアートで犬の像が置かれていました。一点物の本物の像で、ここまで大きなアートが個人邸に置かれる事に驚きました。左下:左上と同じ家のリビングルーム。壁いっぱいの巨大な現代アート。部屋のインテリアの色のバランスに合わせて掛けられていました。右上:映画のプロデューサーの家でファミリールームの壁面には電動で開くプロジェクターが置かれていて、そのカバーにはベルナール・ビュッフェの絵が掛けられていて、その枠に入れる為に絵をカットしたそうです。右下:不動産会社経営者の家で、ダイニングルームの壁面に大きなアートがありました。白いだけの壁がどこにもありません。
右:エーディコア・ディバイズの事務所前のエントランスにYasukoさんからいただいたフォトグラファーの写真を飾りました。作者は不明なのですが、ファッション誌のVOGUEの記事用の写真のようです。Yasukoさんの事務所では世界的写真家ピーター・リンドバーグやグッチの広告写真で有名なグレン・ルックフォードが所属し、サンローランを救ったファッションデザイナーのエディ・スリマンもディオール・オムを2007年に辞めてからしばらくYasukoさんの事務所でカメラマンをしていました。その事務所にあったポートフォリオなので良い物だと思います。左:ミーティングルームのロイ・リキテンシュタイン1964年作「 As I opened fire/アズ・アイ・オープンド・ファイア」リトグラフの初版のようです。

2025.6.30 DESIGNER

家具レイアウトは快適性を左右します

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.169
先日開催しました「家具のレイアウトと人間工学セミナー」に1300名を超えるお客様に参加いただき、当社で開催したWebセミナーでの最多参加者となりました。終了後のアンケートでは沢山のみなさまに感想をいただきました。いつも感想を書いていただくのですが、こんなに沢山のお客様から長文の記入をいただいたのはあまりなく、全てを拝読するのに半日かかりました。いただいた内容は「ストレスが無いレイアウト寸法と通れるだけのレイアウトは違う」「人が座った寸法を想定してのレイアウトが大切」「椅子やソファの定員でなく実際に使用できる人数が大切」「曲線家具が直線家具より有効に使用できる事が目からウロコでした」など、プロの方からの声をいただき、長年行ってきたスキルアップセミナーの中で一番やりがいのあったセミナーでした。

これまで家具の作り方、革の製造など素材について、インテリア写真の撮り方、家具の人間工学など、インテリア知識の一部となればと様々なスキルアップセミナーを開催してきました。今回のレイアウトセミナーは、コロナ禍中に当社スタッフが、お客様からいただいた平面図の家具位置に点線の場所に、指示された家具をレイアウトしてるだけの、理由や使い勝手を考えず、担当営業から言われた事をするだけの作業になっていて、意味も理由も考えないプレゼン用の図面を見て、社員教育をする必要性を強く感じました。実際の社会人になっての仕事は学校で教わる以外に実務を通して覚える事や、先輩たちから教えてもらい身につける事が多く、コロナ禍では現場に出る事も少なくなり、人との関わり合いも少なくなり、指導も不十分になります。その為、私自身も反省し社内勉強会を開く事にしました。

私自身、40年以上家具のデザイナーとして仕事をしてきましたが、会社の先輩だけでなく、ベテランのお客様から叱られたり教えられ、仕事を覚えてきました。家具のレイアウトもその一つで、家具デザイナーになりたいのに、レイアウトなんて平面に置くだけでしょ、と思っていました。しかし、実際に仕事をしていると、レイアウト次第でホテルや旅館などの宿泊施設の効率性、レストランでの快適性がリピートへ繋がる事など、家具デザイン以上に重要な仕事でした。また、人間工学的寸法だけでなく、国際的マナーでのサイズ決定などはお客様へのセールストークに繋がり、信用されるデザイナーと感じていただけるなど、本当に役立つ事が多くありました。レイアウトセミナーを開催する事を決めた際に、当社営業部からプロのお客様に失礼では?怒りを買うのでは?との声がありましたが、私自身、社外の大先輩から指導された経験からやるべきだと思い開催しました。

実際にセミナーをする事になり画像を作りながら、自分自身の経験値の事を見直す事になりました。人間工学的モジュールは学生時代に習った事ですが、様々な高さの家具との間など実践的なサイズについては、社会人になっての経験値で得てきた事が多く、改めて資料作成するとなると参考本が無く一からになりました。レイアウト資料を図面から作りながら改めて家具レイアウトの大切さを感じ、私自身も忘れかけていた事の再認識になりました。平面図で家具で埋めるだけだと使えない事が多く、ダイニングセットは、椅子を引いた状態でなければ座る事ができません。またソファやラウンジチェアなど低い椅子に座ると人は脚を前に出すのでセンターテーブルとの間は多く取る必要があり、ソファの座の高さによって隙間が変わります。どちらも人が使用する状態でレイアウトをする事が重要です。そのモジュールを決めるのは人間工学寸法で、なんとなくでなく、具体的なモジュールを示す事ができればお客様にも納得いただけます。

「曲線家具が直線家具より有効に使用できる事が目からウロコでした」は、レイアウトする場合には狭い場合ほど、デッドスペースを少なくする必要があり、狭い空間だからと通路や隙間をできるだけ少なくしてレイアウトすると逆にデッドスペースが増え使えないスペースが増えてしまいます。実際に人型を使うと視覚的に見やすくなり、L型のソファの角はデッドスペースで、コーナーをラウンドにするだけで人が座れるようになります。インテリアの流行だけでなく、ストレスの無いインテリアを作る為にも曲線家具が必要とされています。最近使う事の無くなった、テンプレートという樹脂板でできた手書き用の製図用品を手に取りながら、これを何枚もダメにして買い替えた事や、レウアウトを書く前にレストランやオフィスでも隣との距離を定規で決めてレイアウトをした事を思い出しました。次のセミナーもスキルアップのためのセミナーを企画します。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:人間工学的、建築基準的に通路の寸法は決まっており、それも家具のレイアウトに利用できますが、家具の高さによって変わります。右上:以前使用していたテンプレートと言われる樹脂板。テーブルとの隙間や椅子の間など決まっていてレイアウトしやすい物でした。左下:ソファは座の高さや奥行きで人の足の出が変わりセンターテーブルとの隙間を変える必要があります。右下:レイアウトは動線を考える際には家具単体の隙間でなく、人が座った状態でのモジュールが重要になります。
上:曲線家具と直線家具のインテリア写真。写真で見ると直線ソファの方が多く座れるように見えます。 下:実際に人型を入れてみると、直線ソファのコーナーは人が座れずに角も片側に人が座ると座れない事が分かります。曲線ソファはコーナーに植物や照明が置く事ができて空間に柔らかさと豊かな印象を与えます。

2025.5.30 DESIGNER

ビリオネアズ・ロウのインテリア

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.168
先日、NHKの「ステータス」という番組でニューヨークの「Billionaires’ Row」ビリオネアズ・ロウのペントハウスの事を放送していました。ビリオネアズ・ロウは、ニューヨークマンハッタンのセントラルパークの南端近くにある住宅用の300メートルを超える超高層ビル群の事で、超高額レジデンスが並ぶ事から億万長者の列と言われています。そのビリオネア・ロウのペントハウスの最高額は360億円という事で、その最上階のペントハウスにディレクターが一晩過ごす為に奮闘すると言う番組でした。話題のニューヨークのビリオネアズ・ロウの番組なので見る事にしました。

番組内では、超高額住宅という事もありガードが固く不動産資料なども無く、住人に見せてもらおうとしても、不動産登記にも名前が掲載されないようにダミー会社になっていたり誰が住んでいるのかも分かりません。あきらめかけた時にようやく現地の購入希望の日系女性を紹介してもらい、同伴者として中を見る事ができるという内容でした。様々なハイエンドな物を取り上げている番組で、取材するディレクターは同じなのですが、Tシャツと野球帽の姿で、取材は無理だろうと思っていると、流石にハウスツアーの時にはスーツ姿で、TPOは分かっているんだと思いました。私自身も西海岸で住宅を取材する時はYASUKOさんの紹介で同伴するのですがアイロンの効いたシャツとジャケットを着て訪問します。

その番組では最高額の360億円の住宅を見る事はできなかったのですが、違うビルの80億円近いペントハウスには訪問する事が出来ました。超高層ビルでペンシルのように細長く、地震の多い日本では揺れが心配になります。エレベーターで上がる時に揺れるエレベーター内で「日本製のエレベーターでないので揺れますね」と日系女性の声で本当に揺れている事が分かります。案内人からは購入しても月の管理費と税金だけで7万ドル以上かかると聞くとディレクターはため息です。そして、それを安定的に支払う人でなければビリオネアズ・ロウの仲間に入れない世界と言われていました。先日、コラムに書いた西海岸のハイエンド戸建て住宅でも同様の経費がかかるので、アメリカの高額不動産の敷居の高さを感じました。

ペンシルよりももっと細長いビルで、狭そうに思ったのですが、ワンフロアは最大2戸で、上層階はワンフロア1戸か上下2~4フロアを占有する広い面積です。目指す部屋はエレベーターにはPHのマークがあるだけで最上階のペントハウスと分かります。エレベーターを降りると、どのビルよりも高い景色とセントラルパーク全体が見渡せます。北側に面したセントラルパークにはビルの影が長い影を落とし、自分がいかに高い位置にいるのかが分かります。目が眩みそうな高さに目を奪われながらインテリアに目を移すと、アメリカハイエンドならではのインテリアです。広い空間を埋めるだけの家具で無く、空間の中にコーナーごとに人の過ごす位置を置く、ゾーニングがしっかり考えられているようです。また、そこに置かれる家具は知っているブランドでは無く、ハイエンド家具とでも言うのでしょうか、流行にあまり左右されない落ち着きのある家具です。

柔らかなカーブした形のソファが空間の中心に置かれています。当社で3年前から展開しているキドニーソファのようにカーブしたソファが空間のメインと部屋のコーナーに置かれ、柔らかな雰囲気を出しています。2020年以降、欧米では曲線を使用した家具が多用されるようになってきました。これは、コロナ禍の息の詰まる緊張した世界から精神と感情に心地よい空間を作るために、バイオフィリックデザインという植物などの自然を感じさせる空間デザインに取り入れた事も一つと言われ、1970年~80年代の柔らかな家具が見直され復刻されている理由です。カーブした家具が生まれたのは1890年代からのアール・ヌーヴォーで、その後、1920年代~アールデコ、1950年代~ミッドセンチュリー、1970年代~ポストモダン、現代と曲線を基調とした家具デザインが精神を安定させ快適さを生む家具として使用されるようになりました。

一時期、忘れかけられていた曲線家具が近年に復活したのは、1970年代から多く使われるようになった現代ソファの基本になっている直線だけだったモジュラーソファに曲線の組合せが使われるようになったからです。広い空間の中心で存在感を演出したり、部屋の隅に心地よい空間を作るなど使いやすさも増したからかもしれません。当社のキドニーソファ/NC-075もモジュラータイプになり急に販売数が増加しました。空間の中心だけと思われていた曲線家具が部屋のコーナーで植物や照明と合わせながら設置すれば、柔らかな精神的に安らげる空間にする事も可能です。今回見た目が眩むような高さの超高層ビルからの緊張した景色を和げるような効果も考えたかもしれませんが、高さの恐怖感で緊張する空間に安らぎ感を出していました。 バスルームにも曲線のニッケルのバスタブが使われていたのも印象的でした。

ラウンジチェアも四角いデザインから柔らかな円形が人気になりつつある事も空間に安らぎと快適性を与えるからかもしれません。ホテルや旅館でも昔は馬蹄形の形を使ったのは空間の雰囲気作りだけでなく、動線などの通行性も考えてのことでした。近々開催するレイアウトと人間工学でも曲線家具を使ったレイアウトをお見せするかもしれません。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

111W57という名のレジデンスのペントハウスは2フロアで605平方メートルあり、現在の価格は4900万ドル/71億円です。当初より金額は下がったようです。NYのこの場所でこの広さならお買い得かもしれません。インテリアに使用される家具は曲線基調の家具で、何スタイルとは一言では言えませんが、イタリア家具ではなく独特なデザインで空間にやさらかさを出しています。
2022年以降、アメリカ西海岸で訪問したハイエンド住宅の家具は曲線家具が多く使用されていました。左上:ウエストハリウッドの山の上にある3000万ドル/45億円のモダン住宅はナリアナ・グランデの自宅の隣の家で、ハリウッドの街が素晴らしい眺めでした。左下:4250万ドル/56億円のベルエアのモダン住宅の寝室に曲線家具が使われています。右上:2800万ドル/40億円の住宅でエントランス前のリビングの中心に曲線家具が使われていました。右下:世界的ゲーム開発者の家で2500万ドル/36億で販売しされていて、リビングにはフレンチスタイルの曲線家具が置かれていました。

2025.4.30 DESIGNER

ミラノサローネとデザインイベントを憂う

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.167
今年もミラノへ行ってきました。ロー・フィエラで行われる家具見本市のミラノサローネと隔年開催の照明展ユーロルーチェ、ミラノ市内で行われるデザインイベントを回ってきました。ネットで発信されるニュースや画像も多く、今年も沢山の所でトレンドセミナーとして開催される予定です。今回のコラムでは40年近くミラノへ行きながら正直な気持ちをお伝えしたいと思います。今年のミラノで行われたイベントはコロナ禍以降に広がった、入場制限と顧客のみを入場させる振り分けをする上位ブランドと、顧客データ収集のための事前入場登録させるブランドや展示会、大行列を産むだけのファッションブランドのイベントなど、徒労に思う展示も多く本来のワクワクするようなデザインイベントとは違ってきていました。今年のミラノサローネ来場者は302,548人(2024年370,824人、2019年386,236人)と昨年の87%となりました。それ以上にミラノ全体の人出も減っていると思うのはミラノホテルの最沸騰や渡航コストなどが、費やす時間に合わないと思う人が多くなってきたからではないでしょうか。そろそろミラノで開催されるというだけで行く時代は終わりにしないと、と感じたミラノでした。

その理由を少し話したいと思います。25年以上前のミラノイベントはフィエラ会場が市内中心地に近くその会場がメインで、世界中から集まるバイヤーと年間成約する売上のための展示会でした。当社でもミラノサローネへ出展したのは1989年で今から36年前でした。その頃は世界から主要ブランドが出展しており、見本市で新しいデザインを発表していました。そのミラノサローネを訪れると一同に集まったブランドと新作が見られる貴重な場所と時間でした。その時代はインターネットが無く渡航して視察するしかなく自分の目で見るかありませんでした。各ブースでは情報として紙のカタログを受付で申請してもらいます。その紙媒体は重く一日回っているとキャリーバックを持参しないと、とても持てませんでした。写真に関してもも気軽に撮れるデジカメやスマホなど無く、また各ブランド共、撮影に対して規制が厳しくプレスパスを持っていても入場で許可を取らないといけなく、情報自体が価値のある物でした。その時代から毎年訪問し、情報を社内共有していたので、自社の情報だけにするのはもったいないとお客様へのミラノレポートとしてセミナーを始めました。

ミラノサローネ時期に家具の展示会だけだったイベントが大きくなり、世界中から見学者が増えてくると、その期間にデザイナー個人の作品発表や企業PRのインスタレーションなどデザイン祭りのイベントが中心となってきました。今ではミラノ市内で行われるデザインイベントがメインとなってきました。そのイベントの規模や質もミラノに行かなければ見られない事で、世界中からの来場者が増え、そのためミラノ市内ホテルの宿泊費も高騰しはじめ、20年前までは2倍程度だったのが、3倍~5倍になり、昨年宿泊した中心から少し離れた場所にあるホテルは昨年一泊6万円だったのが、今年は9.5万円と、通常一泊1.5万円程度の部屋が6倍以上の金額になりました。ミラノ中心に近いエリアのホテルは期間中、一泊平均12.5万円以上で、ホテルの高騰ぶりは狂乱状態です。それをスタッフ同行で3部屋5泊以上はとても宿泊する事はできず、4泊に減らさざるえませんでした。円安もあり航空券と滞在費を入れると平常時期の4倍の予算がかかるようになりました。また、フィエラのサローネ、国際家具見本市の€56(9,000円以上)する入場料も展示会としては高価なチケットになります。

高騰した滞在費に見合う内容なら我慢できますが、国際家具見本市の出展を取りやめた会社が多くなり市内イベントの質も落ちてきました。国際家具見本市では、数年前からPoltrona FlouやCassina、B&B、Zanotta、Morosoなど有名ブランドは出展せずに市内ショールームだけになり、今年はMorteni&CやFrexformも市内ショールームだけになりました。Morteni&Cで話を聞くと、高騰する会場の出展費とブース工事費用を考えると市内にショールームを設ける事ができる。今後も多くのブランドが出展を取りやめるだろうとの事でした。出展者が減少した国際家具見本市会場ではMinottiやFlouの顧客のみの入場制限が、PoliformやLEMA(2/3のエリア制限)でも顧客のみの入場になり、まったく中にも入れず見る事もできないブースが増え、高い入場料を払って展示も見られない、入場しても触れない座れないでは家具の展示会として、いかがなものかと思います。増えすぎた市内イベントでは見るイベントを決めて歩かなければ回りきれず、人気ファッションブランドでは長蛇の列で、やっと入場しても時間に見合わない内容が多く、画像拡散を狙ったSNS映えばかりを意識した展示が多く、がっかりする事が多くなってきました。また、やっと入った中でもスマホ撮影を待つ人でよけいに時間がかかっています。スペインの某ブランドは原宿で開催していたイベントの方が百倍良かったと思いました。

ミラノサローネの国際家具見本市も会場での入場拒否への規制や、市内参加イベントでは展示の質を審査する事も主催者側が考えるべきで、ホテル宿泊料金の上限規制をミラノ市も考えないと、今年から始まった来場者の減少がより進むのではないでしょうか。展示会として本来の姿とイベントの質向上をさせて、インテリアを仕事とするプロユーザー寄りに考えたイベントになるように考える時期にきているのではないでしょうか。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

ロー・フィエラで行われる家具見本市ミラノサローネ。今年のミラノサローネ来場者は302,548人(2024年370,824人、2019年386,236人)と昨年の87%となりました。左上:Minotti 今年は展示ブースがブラウンの木目になりました。中の通路に入っても展示内には入れません。いつもは多少は中が見えましたが、観葉植物が窓の前に置かれほとんど見えなくなりました。写真を撮ろうとした人には中からダメと言われます。そんなに見せたくなければ展示会に出展しなければいいのにと思います。左下:Poliformも予約できずに顧客のみの入場で、入れない人はエントランス脇のガラス越しでしか見えません。右上:LEMA。いつもは中に入れましたが、今年は入場登録して入れても1/3位の展示のみの入場で、広い顧客エリアに入れません。右下:edra。3年前からこのスタイルのブースですが、登録して入場しても中の通路のみで、その通路にもガラス収納が置かれよく見えなくなっていました。ここも座る事もできませんでした。高い入場料を払って見る事もできないのは詐欺に近いように思います。
ミラノ市の中心街で行われるデザインイベントにはファッションのスーパーブランドの展示もあり多くの行列を作っています。左上:ペロタ球技場でいつも展示イベントを行うHERMES。今年は白い箱を展示から吊るし一部のみ開けてガラス器の展示をしていました。展示開口が狭く1〜2人が写メを撮ると動かなくなります。並んでまで見る価値があるか、、。左下:SAINT LAURENTの展示でシャルトット・ペリアンとのコラボ展示。トルトナエリアで少し離れた展示でしたが、サンローランの展示がどのようなものかと見に行きました。大きなブースの中に木仕切りを吊るしての展示で、中に3点を展示しただけでした、、せっかくここまで来たのにと思うような完成度でした、、。右上:Gucci | Bamboo Encounters。グッチを象徴する素材 バンブーの不朽のレガシーをたたえるエキシビションを開催と聞いて並びましたが、完成度の低い展示でかなりがっかりしました。右下:LOEWE TEAPOTS。ミラノサローネのために作られた新作のティーポット。25人のアーティスト、デザイナー、建築家が、「お茶を淹れること」の豊かな伝統を再想像したそうです。行列の中は大きなテーブルがありその上に置かれているだけで、みなさん写真を一枚ずつ撮るので回りには入れません。3日目には全品販売終了して係の方もいなくなっていました。原宿の展示が100倍良かったかも、、。